
インターネット上には、日々ユーザーのリアルな声が発信されています。
それらを正しく収集・分析し、商品開発やマーケティングに活用する「ソーシャルリスニング」は、いまや企業の競争力を高めるうえで欠かせません。
本コラムでは、ソーシャルリスニングのメリット・実際の企業の活用事例・実施手順について詳しく解説します。
ソーシャルリスニングとは
ソーシャルリスニングとは、ソーシャルメディア・ブログ・掲示板・レビューサイトなどで発信されているユーザーの声を収集して分析し、事業に反映させるマーケティング手法です。
アンケート調査やグループインタビュー以上にユーザーの本音がわかるため、自社ブランドの評価やユーザーインサイトの理解に適しています。
また、トレンドや競合動向の調査にも有効で、商品開発やキャンペーン企画に活かすこともできます。
ソーシャルリスニングのメリット
まずは、ソーシャルリスニングの主なメリットを5つご紹介します。
アンケート調査よりもリアルな声を集められる
ソーシャルリスニングは、アンケート調査よりもリアルな声を集めることができることが最大のメリットです。
アンケート調査は企業から依頼されて実施するため、ユーザーにとっては、企業の担当者に調査結果を見られるという意識が働きます。正直な意見を書きづらいと考える人も多いでしょう。
一方で、ソーシャルリスニングは人々がソーシャルメディアやブログで自由に行った発言を分析するものです。ユーザーが自発的に発信している声であるため、制限やフィルターがないリアルな意見を収集できます。
リアルタイムで生活者や業界の動向が把握できる
ソーシャルリスニングなら、リアルタイムに多くの情報を把握できます。
引用元:総務省『令和3年通信利用動向調査』(参照 2025-04-10)
総務省が公表した「令和3年通信利用動向調査」の結果によると、日本の10〜49歳の年代では、いずれも約90%がSNSを利用しています。SNSは、まさに世の中全体の動きやトレンドが反映されていると言えます。
生活者のトレンドや業界の動向をいち早くキャッチして、自社のプロモーションやマーケティングにスピーディに活かすことができるでしょう。
キャンペーンの反響を測定できる
自社サービス・商品・キャンペーンの名称など、特定のキーワードについての口コミを収集すれば、反響を測定することも可能です。
特にキャンペーンを打ち出したあとには、キャンペーンの口コミを収集することでシェア数などによる広がりを把握し、どれほど売上に貢献したかを予測できます。
キャンペーン実施ごとに、どれくらいポジティブな口コミが増えたのかを測ったり、口コミの内容を把握したりと効果測定を続ければ、さらにキャンペーンの内容を改善できるでしょう。
インフルエンサーを特定できる
ソーシャルリスニングでは、自社のサービスや商品を広めてくれるインフルエンサーを特定することもできます。
企業にとっては、単にフォロワー数が多いユーザーだけがインフルエンサーなのではありません。
フォロワー数が少なくても、すでに自社のサービスや商品について何度も発信してくれていて、影響を受けてそれらを購入する人が多いなら、そのユーザーは自社にとってのインフルエンサーです。
企業側からインフルエンサーの投稿をリポストするなどコミュニケーションを測ったり、アンバサダーマーケティングを活用したりすることで、さらに波及効果を高められるでしょう。
アンバサダーマーケティングについては、以下で詳しく紹介しています。
潜在的なリスクを検知できる
潜在的なリスクが検知できるのも、ソーシャルリスニングの利点です。ソーシャルメディアなどをリサーチしていると、「〇〇らしい」「〇〇だそうだ」というような噂が目に入ることがあるでしょう。
自社のサービスや商品についての風評被害につながりかねない投稿をチェックしておくことで、危機管理がしやすくなります。
実際に指摘されるような欠陥がないか、サービスプロモーションや商品コピーに誤解を招く表現がないかなどを早めに確認し、もしも自社のミスなどがあれば早急に改善しましょう。
マイナスな口コミや批判の投稿に対しては、返信をして対処することも大切です。口コミの返信については以下の記事も、ぜひ参考にしてください。
ソーシャルリスニングの企業事例
ここからは、ソーシャルリスニングを行っている企業の活用事例をご紹介します。
ライオン株式会社
生活用品メーカーのライオン株式会社は、ソーシャルリスニングの危機管理への活用に成功しています。
同社は、ソーシャルメディア上で自社製品についての発信を24時間体制でチェックし、重要な案件があれば早急に対応しています。
例えば、同社の医薬品を探していたユーザーが「薬局を回ったけれど見つからない」と投稿しているのを発見すれば、同じような状況がほかにも起きていないかを分析し、静観・社内共有・即時対応など、何を行うべきかを判断しています。
ソーシャルリスニングによる炎上リスクを具体的に社内共有することで、社内全体のリスク管理への意識向上も実現させています。
引用元:NTTコム オンライン『ライオン株式会社様:導入事例 - ソーシャルリスニング』(参照 2025-04-10)
日本航空株式会社
日本航空株式会社では、マーケティングや危機管理に活かすべく、ソーシャルリスニングツールを利用して日々分析をしています。なかでも注力しているのがX(旧Twitter)の分析です。
ツールを活用しているとはいえ担当者はツールに頼り切らず、抽出した自社と他社の関連投稿を3000件程度、目視でチェックしています。本文をしっかり読むことで、大勢のユーザーの声を代弁するようなツイートを見つけることができ、サービス向上に役立つと言います。そうして改善したサービスが、マーケティングや危機管理にも活きています。
例えば、JALラウンジ内のトイレットペーパーについて「シングルロールで切れやすい」というツイートからダブルロールへ変更しました。このように、リアルな声を活かしたよりよいサービスの提供でユーザーの満足度をアップさせています。
また、これらの情報から日報や週報を作成することで全社的にソーシャルリスニングに対する意識を高めています。
引用元:TDSE株式会社『日本航空株式会社 | Quid Monitor導入事例 | 【Quid Monitor】SNS分析ツール』(参照 2025-04-10)
大日本印刷株式会社
大日本印刷株式会社には、美容メーカー・食品メーカー・家電メーカーなど、さまざまな業界のクライアントがいます。そのため、提案をする際には業界分析が必要です。それぞれの課題をヒアリングした上で、ソーシャルリスニングによって業界動向を分析し、課題解決につながるヒントがないかを探ります。
例えば、提案先が男性向け新商品を発売するにあたって、すでにSNSフォロワーであるユーザーがリツイートした上位投稿を分析することで、フォロワーの興味の方向性が理解できました。
同社は、上記の分析結果を生かし、パッケージデザインやコンセプト作成の課題解決につながる提案につなげています。また、ユーザーがどのように商品を利用しているのかなど、クライアント自身が気づいていない商品の良さを伝えることができた例もあります。
引用元:ブレインパッド『大日本印刷 (DNP) | 【公式】Brandwatch - ソーシャルアナリティクス』(参照 2025-04-10)
ソーシャルリスニングの実施手順、分析方法
実際にソーシャルリスニングを実施するときは、どのように進めればよいのでしょうか。手順や分析方法を説明します。
1.調査目的を明確にする
まずは、調査の目的を明確にします。例えば、次のような目的があります。
- プロモーションの効果測定
- 自社イメージの把握
- 新規ユーザー獲得施策の検討
- リピート率アップ施策の検討
- リスク対策
- トレンド調査
国民の多くがSNSを利用する現代、ソーシャルリスニングによってできることは多岐に渡ります。そのため、目的を決めずにリサーチをすると時間が足りなくなってしまいます。
そのため、費やすことができる工数を検討したうえで、今回の調査では何を目的にすべきかを明確にしてから調査を開始しましょう。
2.調査するメディアを選ぶ
目的を明確にしたら、調査対象とするメディアを選定しましょう。ソーシャルリスニングができるプラットフォーム自体が非常に多いため、目的に沿って絞ることが重要です。
ソーシャルリスニングに適したメディアには、次のようなものがあります。
- X(旧Twitter)
- TikTok
- YouTube
- ブログ
- 口コミサイト
- Q&Aサイト
- 掲示板サイト など
メディアを選定するときは、ユーザー層を分析してそのメディアに欲しい情報があるかどうかを重視しましょう。
3.キーワードを決めてデータを収集する
次に、どのようなキーワードでリサーチしていくかを決めます。例えば、プロモーションの効果測定を行うなら自社サービス・商品・キャンペーンの名称、自社イメージの把握なら企業名や通称名、トレンド調査ならジャンルなど、目的に応じて情報収集の中心とするキーワードを決めましょう。
また「〇〇 味」「〇〇 便利」「〇〇 かわいい」などユーザーが一緒に使いそうなキーワードにも目星をつけておくとスムーズです。
キーワードが決まったらリサーチを開始し、データを収集しましょう。
4.データ分析をする
収集したデータの分析には、数値を基準にした定量分析と内容を基準にした定性分析があります。
また、定性(内容)を定量化(数値化)するために、内容をポジティブ・ネガティブ・ニュートラルなどに分け、それぞれどれくらいの数や割合だったかを分けるのも有効です。
情報量が膨大で手作業で分析するのが大変な場合は、有料のソーシャルリスニングツールを導入するのもよいでしょう。
ソーシャルリスニング分析のコツ
ここからは、ソーシャルリスニング分析の種類とコツをお伝えします。
数値分析
ソーシャルリスニングの一般的な数値分析としては、投稿数の分析、リーチ数の分析、ポジティブ・ネガティブ割合の分析があります。
投稿数の分析
投稿数を分析するには、各プラットフォームで選定したキーワードを含む投稿がどれくらいあるかを集計しましょう。この際、プロモーションを開始する前と後を比べるなど、期間を指定することで今後の指針として有効な数値が得られます。
また、自社の情報だけでなく競合他社の情報についての投稿数と比較するのも有効です。
投稿数は刻々と変化します。そのため、データをグラフ化して推移を確認することも大切です。どこかのタイミングで急に投稿数が増えている場合、その要因を分析することができます。
リーチ数の分析
それぞれの投稿がどれくらいの人に見られているのか、リーチ数を分析することも重要です。特にSNSは、投稿数が10件のみでも、シェア数やいいね数が1万以上あるなど、実は影響力が大きいケースも少なくありません。
また、投稿元のたった1人のアカウントにフォロワー数が何百万人といれば、シェア数やいいね数に関係なくリーチした数は非常に多いと考えられます。
リーチ数を分析することで、実際に自社の情報に触れた人の数を予測できます。その前後で売上などに変化がないか、営業部や販売部の情報と照らし合わせるのもよいでしょう。
ポジティブ・ネガティブ割合の分析
内容をポジティブなものかネガティブなものかに分け、それぞれの割合を把握しましょう。また、ポジティブでもネガティブでもないニュートラルにも分けることで、より自社のイメージや商品に対する評価が見えやすくなります。
このときも期間を定めて日・週・月別の推移などを観察することで、ポジティブな投稿やネガティブな投稿が増えた要因を探ることができます。
トレンド調査
ソーシャルリスニングの分析においては、自社のサービスや商品名と同時にどのような言葉が多く使用されているのか、その傾向を把握するトレンド調査も有効です。想定していなかったキーワードがよく一緒に使用されていれば、新たな発見となり、マーケティング施策に活かすことができます。
例えば、多くの投稿で著名人の名前が一緒に出てくるかもしれません。特定の著名人が商品を身につけていたことが影響しているなら、該当の著名人を次回のイメージキャラクターに採用するなど、施策が広がります。
また、一緒に「レビュー」という言葉が多く使われていれば、レビューを参考にして購入したユーザーが多いと考えられます。その場合は、さらにレビュー数を増やすようなプレゼントキャンペーンを行うなどするとよいでしょう。
アカウント分析
アカウント分析によって、自社に関連する情報を発信しているユーザーの性別・年代・居住地などの属性を把握することも大切です。
特に、ポジティブな発信をしてくれているユーザーの属性を把握し、ほかにはどんな投稿をしているのかをチェックすることで、インサイトやトレンドを知ることができます。
それらを元にプロモーションやマーケティングの成果につなげたり、商品開発に活かしたりすることもできます。
セグメント分析
数値分析やアカウント分析で抽出したデータを元に、セグメント分析も行いましょう。セグメントとは、区分や部分を意味します。例えば次のようなセグメントに分けることができます。
- 購入したユーザーかどうか
- 商品への興味関心度
- 何を見て投稿したか
- サービスを知ったきっかけ など
目的に応じて適切なセグメントを分け、分析することが大切です。
まとめ
ソーシャルリスニングは、ユーザーのリアルな声を収集できるからこそ、プロモーションの効果測定や自社イメージの把握をはじめ、トレンド調査や競合分析にも役立ちます。
このようなインターネット上の貴重なデータを分析して具体的な戦略に落とし込むことは、企業のマーケティング力を高め、売上や業績アップにつなげるために非常に大切です。
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