ユーザーの欲求を正確に把握することは、ビジネスやマーケティングにおいて欠かせないステップです。
ユーザーの欲求を意味する「ニーズ」と「ウォンツ」の違いを理解し、分析して戦略に活かすことができれば、ユーザーが本当に求める製品やサービスを提供できます。
本コラムでは、ニーズとウォンツのそれぞれの意味と、その違いがビジネスやマーケティングにどのような影響を与えるかについて、詳しく解説していきます。
ニーズとウォンツ、それぞれの意味
ニーズとウォンツはよく似た言葉ですが、ビジネスやマーケティングにおいては2つを区別することで、より製品開発やサービス改善に活かすことができるため、違いが重視されています。
まずは、ニーズとウォンツ、それぞれの意味を解説します。
ニーズとは
ニーズは英語のNeedが由来で「求めているもの」や「要求」という意味です。ビジネスやマーケティングにおいては、ユーザーが求める理想的な状態を指します。
マーケティング戦略を立てるとき、多くの場合、ユーザーのニーズを基礎として考えます。理想の状態に近づけるために欠けているものは何かを分析し、ギャップを解消していくことで売上につながります。
ニーズには「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」の2種類があります。
顕在ニーズ
顕在ニーズとは、ユーザー自身が気づいている欲求のことです。本人がニーズを自覚しているため、求めているものを探しやすい状態です。
例えば、「荷物が重い」と普段から感じている状態のユーザーは、より軽いバッグやより軽いパソコンがあれば購入を検討するでしょう。
潜在ニーズ
潜在ニーズとは、ユーザー自身が気づいていない、あるいは何らかの課題を感じているものの、言語化できない欲求のことです。
また、製品やサービスとの出会いによって顕在化するようなニーズも、潜在ニーズです。例えば、手の込んだ料理はレストランで食べるものだと思いこんでいたけれど、自宅で簡単に作れる調理機器を知り、「まさに自分が必要としていたものだ」と思って購入するようなケースがこれにあたります。
ウォンツとは
ウォンツは英語のWantのことです。マーケティングにおけるウォンツとは、ニーズを満たすための特定の製品やサービスに対する欲求を指します。
例えば「荷物が重い」と感じている人が「軽いパソコンが欲しい」と考えたとき、この「軽いパソコンが欲しい」という具体的な欲求はウォンツに分類されます。ウォンツはニーズよりも具体的・個別的で、解決策となるものに対する欲求です。
ウォンツは、次の3種類に分類されます。
基本ウォンツ
基本ウォンツは、ニーズを満たすための基本的かつシンプルな欲求です。
例えば、「自宅でコーヒーを飲みたい」と思ったときに「コーヒーメーカーを買おう」と考えるようなケースは基本ウォンツに分類されます。
条件ウォンツ
条件ウォンツは、基本ウォンツに詳細な条件を加えた欲求です。これは、理想的な状態にさらに近づけるためのウォンツだと言えます。
例えば、「自宅でコーヒーを飲みたい」と思ったとき、ただ「コーヒーメーカーを買おう」と考えるのではなく「香り高いコーヒーを淹れられるものがよい」や「短時間でコーヒーを淹れられるものがよい」というのが条件ウォンツです。
期待ウォンツ
期待ウォンツは、選んだ商品やサービスに対して、当然ついているだろうと期待される機能や状態のことです。
例えば、新しい商品を購入すればきれいな状態であることを期待するのは当然でしょう。コーヒーメーカーの場合、故障していないことはもちろん、購入してすぐに使えることやわかりやすい取扱説明書が付帯していることなども期待ウォンツに含まれます。
ニーズとウォンツの違い
ニーズとウォンツの大きな違いは、ニーズが「目的」であるのに対して、ウォンツが「手段」であることです。
例えば、空腹な人がいた場合、その人は「お腹を満たしたい」というニーズを持っています。それに対して「お肉が食べたい」というのはウォンツです。
「お肉を食べる」ことは、「空腹を満たす」という目的のための手段です。
どちらも「欲求」であることに違いありませんが、手段であるか目的であるかによって、使い分けることができるのです。
- ニーズ=目的
- ウォンツ=手段
そもそも「手段」とは、基本的に「目的」のためにあるものです。そのため、ビジネスやマーケティングにおいてはニーズとウォンツを使い分けるものの、実際はグラデーションのように地続きです。そのため、どこまでをウォンツとして、どこからをニーズとするか、マーケティング戦略のゴールなどによって設定することになります。
ニーズとウォンツを使い分けるべき理由
ニーズとウォンツをうまく使い分けることによって、販売戦略やマーケティング戦略が立てやすくなります。
例えば、コーヒーメーカーを扱う会社が、「自宅でコーヒーを飲みたい」という基本ウォンツを持つ人に向けて、マーケティングを行うとします。その背景を探ってみると、ユーザーは「自宅でリラックスした時間を過ごしたい」や「カフェ気分で在宅ワークがしたい」というニーズを持っているかもしれません。
単純に「自宅でコーヒーを飲みたい」と考えている人に向けたキャッチコピーと、「カフェ気分で在宅ワークがしたい」と考えている人に向けたキャッチコピーは、大きく異なるでしょう。
また、「自宅でコーヒーを飲みたい」ウォンツに向けたアプローチであれば、コーヒーメーカーを探すであろう人が多く立ち寄る電化製品のコーナーで販売するのが王道です。しかし、「カフェ気分で在宅ワークがしたい」ウォンツへのアプローチであれば、家具コーナーにコーヒーメーカーを置くほうが購買につながりやすいかもしれません。
マーケティングにおいてターゲットを設定する際も同じように、コーヒー好きを対象にするのではなく、おしゃれなライフスタイルを追求している人をターゲットにするなど、ニーズとウォンツを使い分けることでアプローチが変わります。
目的を達成する手段は、ユーザーや企業が考える以上に多くあるものです。そのため、ウォンツ以上にニーズを探っていくことで、販売できるものやターゲットの幅は広がり、開発やマーケティングの幅も広がります。
ニーズとウォンツのシチュエーション別事例
ここからは、具体的なシチュエーションを例にニーズとウォンツの違いについて解説していきます。
海外旅行に行きたい場合
「海外旅行に行きたい」というのは、ニーズでしょうか、ウォンツでしょうか。
この場合、マーケティングにおいては基本ウォンツに分類します。具体的に国や都市が決まっている場合は条件ウォンツです。いずれにしても、国外へ旅行することは何らかの目的を果たすための「手段」だと考えられるからです。
では「海外旅行に行きたい」というウォンツがある場合、どのようなニーズがあるのでしょうか。考えられるニーズには、次のようなものがあります。
- 一時的に気分転換をして、仕事の効率を上げたい
- 家族や友人と楽しい時間を過ごしたい
- 非日常を味わい、ストレスを発散したい など
高機能洗濯機が欲しい場合
「高機能洗濯機が欲しい」という具体的な製品やサービスを想起している場合も、ウォンツに分類できます。
そして、手段として高機能洗濯機を得ることで、達成できる目的がニーズです。高機能洗濯機が欲しい方のニーズには、例えば次のようなものがあります。
- 家事にかかる時間を節約して、ゆっくりしたい
- 子育て時間を増やし、家族で楽しく過ごしたい
- よりきれいに洗濯できることで、気分よく衣類を身につけたい など
AIツールを導入したい場合
BtoBユーザーのケースについても考えてみましょう。
例えば、ある企業が「AIツールを導入したい」というウォンツを持っている場合、その背景にあるニーズとして以下の例が考えられます。
- 利益率や売上をアップしたい
- 業務を効率化したい
- オフィス維持にかかるコストを削減したい など
ニーズ・ウォンツの分析方法
では、ユーザーのニーズやウォンツを分析するには、どうすればよいのでしょうか。
主なポイントをご紹介します。
手に入れたときのメリットを探る
特定のウォンツがわかっている場合、他のウォンツやニーズを分析するためには、手に入れたときのメリットを探るのがポイントです。
例えば、「最新のスマートフォンがほしい」と考えている方に、それを手に入れたときのメリットを聞いてみると「デザインがスタイリッシュだから使っていてよい気分になる」と答えるかもしれません。
そのような方の場合、スマートフォンのみならず、パソコン・筆記用具・洋服などあらゆる持ち物に対して「スタイリッシュなデザイン」を求めるでしょう。
なぜそう思うのか?を深掘りする
ニーズを分析するには「なぜそう思うのか?」を深掘りしていきましょう。例えば、上記のスマートフォンの例においては「スタイリッシュなデザインだと、なぜよい気分なのか」をさらに深掘りします。すると「仕事ができる人だと思われたい」というニーズが出てくるかもしれません。
「仕事ができる人だと思われたい」というニーズが掴めると、本記事内「ニーズとウォンツを使い分けるべき理由」でご紹介したように、新しい商品開発や別の既存商品の提案に活かすことができます。
リサーチをする
ニーズやウォンツの分析にはリサーチも欠かせません。アンケートやモニター調査を実施したり、インターネット上の情報を参考にして、ニーズやウォンツを把握しましょう。
アンケートやモニター調査
アンケートやモニター調査には、定量調査と定性調査があります。
2つの違いは以下の通りです。
- 定量調査…数やパーセンテージなど、数値で測れるものを調査すること
- 定性調査…ユーザーによる自由回答などで意見や欲求を調べること
定量調査の例としては、「あなたがスマートフォンケースを購入する際にもっとも重視する点は何ですか?」という質問に対して、選択肢を事前に設定し「色・素材・デザイン・値段・持ちやすさ・重さ・その他」などから選んでもらう方法などがあります。
定性調査の例としては、「製品Aを購入した理由は何ですか?」や「使ってみた感想を教えてください」という質問に自由に答えてもらうなどがあげられます。
これらの調査を行うには、質問フォームを作成し、自社の顧客情報に対してメールなどで回答を依頼しましょう。また、マーケティングリサーチ会社やアンケート調査会社を利用するのもおすすめです。
インターネット上の情報を参考にする
インターネット上の情報であれば、アンケート項目などを準備する必要がなく、いつでもニーズやウォンツを把握することができます。
主に、ユーザーやターゲット層のSNS投稿やブログをリサーチするのがよいでしょう。
企業の目を意識していないユーザーの生の声を拾えるため、企業側では想像していなかった意見を発見できる可能性があり、非常に有効です。
ユーザーからニーズ・ウォンツを聞き出すコツ
接客やインタビューなどのコミュニケーションを通じて、ユーザーからニーズやウォンツを直接聞き出すことができれば、確実に売上向上につながります。ここからは、ニーズ・ウォンツを聞き出すコツをご紹介します。
ウォンツからニーズを聞き出すには
すでにお伝えしたように、ニーズを知るにはユーザーのウォンツを掘り下げることがポイントです。その際「それを手に入れたら、どんなよいことがあると考えているか?」を探っていきましょう。
例えば、「コーヒーメーカーが欲しい」と言うユーザーに「このコーヒーメーカーがあると、どんなよいことがありますか?」と質問していきます。
ユーザーが「自宅でコーヒーが飲めるようになる」と答えたら、「自宅でコーヒーが飲めるようになったら、どんなよいことがありますか?」とさらに質問します。
すると、「自宅でコーヒーが飲めると、カフェ気分で在宅ワークができる」と答えるかもしれません。さらに「カフェ気分で在宅ワークができると、どんなよいことがありますか?」と質問を重ねていきます。それに対して「カフェではいいアイデアが思いつきやすく、よい企画ができて仕事の成果につながる」と答えるかもしれません。
つまり、「コーヒーメーカーが欲しい」というウォンツ(手段)は、「よい企画を創って仕事の成果につなげる」というニーズ(目的)のためだったのです。
このような場合、自社が電化製品を扱っているなら、コーヒーメーカーだけでなく、音質のよいスピーカーもおすすめできるかもしれません。あるいは、自社が家具を扱っているなら、ボックス型で仕切りのあるパソコンデスクをおすすめできるかもしれません。
コミュニケーションを通じて、自然に探っていきましょう。
ニーズからウォンツを聞き出すには
逆に、ニーズからウォンツを分析するには、具体化がポイントです。
例えば、ホームセンターを訪れるユーザーが「家で快適な休日を過ごしたい」というニーズを持っていることは少なくありません。しかし、「家で快適な休日を過ごしたい」というだけでは、具体的に何を購入するかが定まっておらず、ホームセンターを一周した結果、何も買わずに帰ってしまうということが起こり得ます。
このような場合、接客によるコミュニケーションで具体化していけば、ユーザーのウォンツを引き出し、購買につなげられるかもしれません。
例えば、休日のなかでも朝・昼・夜のどの時間を特に快適に過ごしたいと考えているのか、そのユーザーにとって「快適」とはどのような状態か、求めているのは身体的な快適さなのか精神的な快適さなのかなどをヒアリングしていきます。
それによって、特定の商品を想起させるウォンツに近づいていくことができるのです。「夜を身体的に快適に過ごしたい」「快適とは、体がラクな状態である」ということがわかったとすると、ソファ・座椅子・ラグ・ベッドなどを提案することができるでしょう。
まとめ
「ニーズ」と「ウォンツ」の違いを活かして、マーケティングや販売を行うことは、より多くのユーザーに対してユーザーが心から求める製品やサービスを届けることでもあります。つまり、ニーズやウォンツの把握によって、より喜ばれるビジネスを展開することにつながると言えます。
ユーザーのニーズやウォンツに適う製品やサービスを届ける際、ユーザーが自分の欲求に気づいたあと、どのようなステップを踏んで購買やリピートに至るのか、その道筋を考えることも大切です。それによって確実に、必要としているユーザーに届けることができます。そのためには、カスタマージャーニーという考え方が役立ちます。
カスタマージャーニーは、ユーザーの購買やファン化に至るまでの道筋を描く、重要なマーケティング施策のひとつです。
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