売上アップや事業の成長のために、データの利活用をする企業は、年々増えています。すでにほとんどのマーケターがデータの重要性を痛感しているのではないでしょうか。
さらに最近は、あらゆる局面でデータ主導による意志決定を行う「データドリブンマーケティング」への注目が高まっています。
本コラムでは、データドリブンマーケティングが従来のデータを使ったマーケティングと何が違うのか、収集すべきデータや収集方法、成功事例などについてわかりやすく解説します。
この機会にぜひご覧ください。
データドリブンマーケティングとは
データドリブンマーケティングとは、データに基づいて客観的に分析し、ビジネスや経営上の意思決定をすることで、事業を成長させていくマーケティング手法です。
WEBサイトのアクセスデータや店頭における顧客データなど、単一的なデータではなく、オンライン・オフラインを問わず自社が得られるあらゆるデータを活用するのがポイントです。
データの重要性が高まっていることは、ビッグデータやAIの発展によって、多くの企業が感じているはずです。特に「データドリブン」という言葉は2010年代後半から流行し、データをただ活用するのではなく、データを起点としてマーケティング戦略を立案し、実行しようという風潮を生み出しました。
マーケティング戦略を立てるときに特定のデータを活用することは珍しくありません。
データドリブンマーケティングは、多面的なデータ主導で意志決定をすることで、より確実な成果につなげる方法なのです。
データドリブンマーケティングの重要性
多くの企業がデータドリブンマーケティングを取り入れるべき理由として、ユーザーの購入経路の複雑化・ユーザー層の多様化・多くの企業でDXが進んでいることなどがあげられます。
ユーザーの購入経路が複雑化している
しかし、スマートフォンが購買行動の中心となっている今のユーザーは、SNS・オウンドメディア・アプリなど、さまざまな場所で商品やサービスに出会い、あらゆる観点から情報収集して評価します。また、商品やサービスのスペックやデザインだけで購入するユーザーは減り、開発背景・企業ストーリーなどが購買に影響するようになりました。
そのため、データを取得してユーザーの行動や感情を把握し、複雑な購入経路を可視化するデータドリブンマーケティングの重要性が高まっています。
ユーザー層が多様化している
ユーザー層そのものも、多様化しています。
20代女性向けに開発したコスメが、アイドルの発信をきっかけに10代男性に流行するなど、企業が開発した商品が本来想定しうるユーザー以外に刺さるケースも少なくありません。データドリブンマーケティングを取り入れていれば、どうして想定外のユーザーで流行るようになったのかを分析し、次に活かすことができます。
先述の例でいえば、アイドルのファン層・動画についたコメント・ユーザーはどこで購入したのか・二次的なブームの要因は何かなど、データを元に解析していくことで、偶然のブームを再現性のある戦略に落とし込むことができます。
多くの企業でDXやAI活用が進む
多くの企業でDXが進んでいることも、データドリブンマーケティングが重要な理由です。
一部の企業は、店頭においてはセンサーでリアルタイムの動きを取得し、オンラインではスマートフォンとPCにおけるユーザーの利用履歴を統合し、クラウド上の膨大な量のデータも取得して分析するなど、あらゆるデータを活用しています。
データを活用せず、経験則のみでマーケティング戦略を立てていると、類似サービスに市場を譲ってしまうかもしれません。なぜなら、経験則が通じない状況が出てきたときに、改善点を見つけるにも時間がかかり、最適な施策にたどり着くまで必要以上に遠回りになってしまうからです。
データであれば、改善点を見つける精度が上がり、試行錯誤を重ねなくても適切な施策を発見しやすくなります。近年では、生成AIによる分析を取り入れている企業も増えており、これまで以上に精度の高いデータドリブンマーケティングを行う企業が増えています。
データドリブンマーケティングのメリット・デメリット
ここからは、データドリブンマーケティングを行うメリットとデメリットについてご説明します。
データドリブンマーケティングのメリット
根拠ある意思決定と、ノウハウの蓄積ができる
データドリブンマーケティングでは、数値に基づいて意思決定をします。経験則や勘ではなく、客観的なデータに基づく根拠ある判断です。そのため、結果と原因の関係性が明確で、目標達成までのステップがわかりやすく、改善にも活かしやすいものです。
実証データはノウハウとして蓄積されます。そのデータは経験則や勘よりも圧倒的に再現性が高く、状況や担当者が変わっても成果を出し続けることができます。また、想定した成果に結び付かなかった場合の原因究明がしやすいのもメリットです。
売上・利益の見直しにつながり、費用対効果の高い施策ができる
データドリブンマーケティングを取り入れると、より確実に成果につなげることができるため、売上や利益の向上が期待できます。
例えば、売上が月1000万円だとしても、購入経路が広告経由であり、広告費を900万円かけていたという場合、利益は100万円しかありません。
しかし、データ分析によってオウンドメディアからの購買が見込めそうだとなれば、広告費を減らしてオウンドメディアからの購買を増やす施策へと変更する判断ができます。広告費を下げながら売上を今以上に伸ばすことができるのです。
データドリブンマーケティングに取り組むことで、費用対効果の高い施策に予算を集中させることができ、より事業の成長につなげられるでしょう。
データドリブンマーケティングのデメリット
データ解析の環境が必要
データドリブンマーケティングをするには、あらゆるデータ解析ができる体制を整える必要があります。
WEBサイトのデータであればGoogleアナリティクスなどを使用すればよいですが、店頭でセンサーによってユーザーのリアルタイムの動きを取得するような場合、機器の導入や設置には、時間もコストもかかります。また、ビッグデータを活用するためには、顧客管理システムや営業システムなど、あらゆるシステムを導入し、各データを統合するなど大掛かりな設定が必要です。
そのため、自社の状況や予算に応じて、どこまでなら実装できるのかを慎重に検討する必要があります。
分析力が必須
データをいくら取得しても、分析ができなければほとんど意味をなしません。
そのため、データを見て、どこが問題となっていて、何をどう改善すればよりよい成果につながるのか、分析できるアナリストが必要です。社内で育成や雇用をしたり、社外のパートナーとして高い分析力を持つ担当者を見つける必要があるでしょう。
データドリブンマーケティングの事例
ここからは、データドリブンマーケティングを実践し、大きな成果につながっている企業事例をご紹介していきます。
NTTドコモ:データ収集ツールの導入と人材育成で、データドリブンを加速
NTTドコモは、dポイント事業の9200万人以上の会員データを活用したデータドリブンマーケティングに成功しています。
特に大きな転換点は、自社で構築したサーバーでデータ基盤を運用してきたNTTドコモが2021年に、クラウドデータプラットフォームを導入したことだと言います。
会員情報を預かるにあたっての強固なセキュリティを重視しつつ、使いたいときに使いたいデータを、わかりやすく素早く取り出せるサービス選定を行ったことで、これまで以上にデータを活用した意思決定やマーケティングを実施しています。
また、NTTドコモは2025年ごろまでに5000人のデータ活用人材を育成することを目指し、「データ活用人材育成プログラム」も展開しています。
引用元:NTTデータ『新規ビジネス拡大へ!NTTドコモにみるデータドリブン経営 —9,200万人の会員データ活用における課題と新データ基盤—』(参照 2024-09-25)
JTB:3チーム体制で分析し億円単位のインパクトを生み出す
旅行会社のJTBも、データマネジメントプラットフォームを活用し、約1500万人のユーザー情報のデータドリブンに成功しています。
JTBは統合データ基盤・顧客分析・マーケティングアクションの3つのチームに分け、統合しながらデータを元にユーザーにアプローチし、案件によってはコンバージョン率が45%もアップした例もあります。
また、分析チームを統計解析を扱う量的分析チームと、ユーザーのコンテクストを読み解く質的分析チームに分担するなど、コンバージョン率を高める細やかな工夫や調整を行っています。
例えば、航空券が無料である2歳未満の子どもを持つ夫婦に、1歳11か月までの適切なタイミングで購買動機を与えたり、旅行者を「ハワイ玄人度」でわけてトップページやレコメンデーションを異なるものにするなどです。
このような細かな調整が、億単位のインパクトにつながると言います。
引用元:Web担当者Forum『CVR45%増の事例も! JTBのDMPを用いたデータドリブン成功の秘訣』(参照 2024-09-25)
ZOZO:AI活用で効率的にマーケティングし、売上拡大
ZOZOでは、年間ユーザー860万人以上のZOZOTOWNなどが持つビッグデータを使ってAI活用を進めています。
ユーザーが検索した商品の形・色柄などから、AIが似ているものを検出して一覧表示させたり、ユーザーごとに30日以内の購入予測を立て、それに応じてマーケティングを行っています。
それによって、ユーザーが新たな商品と出会う機会を増やし、売上拡大やユーザー体験の価値向上につなげているのです。
また、AIがZOZOSUITなどのスキャンデータを解析し、古着の最適な買い取り価格予測や欠品予測を立て、コールセンターへの連絡量を予測して最適な人員配置につなげるなど、徹底して効率化されています。
引用元:通販新聞ダイジェスト『【ZOZO・エアークローゼット事例】AIを活用する最前線ファッションテックの現状とは?』(参照 2024-09-25)
データドリブンマーケティングの実施手順
データドリブンマーケティングをはじめるための実施手順をご紹介します。
1.どのようなデータを収集するのかを決める
まずは、どのようなデータを収集するか決めましょう。「データドリブンマーケティングを実施するメリット・デメリット」でもお伝えしたように、さまざまなデータを取得するには準備が必要です。そのため、理想と実現可能なデータ収集の方法は異なるかもしれません。
まずは、収集するべき属性データを決め、そのあと必要なツールをしぼっていきましょう。
収集する属性データを決める
BtoCとBtoBでは、収集すべきデータが異なります。
例えば、次のような項目のデータを集めるとよいでしょう。
-
BtoCの場合
- ユーザーの年齢
- 性別
- 居住地域
- 勤務地域
- 働いている業界
- 趣味趣向
- 交通手段
- 生活パターン など
-
BtoBの場合
- ターゲットとなる企業の業界
- 従業員数
- 役員構成
- 売上規模
- 毎年の採用人数
- 抱えている課題 など
属性が決まれば、その属性のユーザーや企業のデータであれば、どのようなツールを使って収集できるのかと考えていきます。
データ収集ツールをしぼる
オンラインでもオフラインでも、あらゆるデータを集めたいところですが、予算やリソースを踏まえて、実現できるデータ収集方法を決めなければなりません。
データ収集に使えるツールは、例えば以下のようなものがあります。
- WEBサイト解析ツール
- WEB広告解析ツール
- SNS解析ツール
- 顧客管理システム
- 営業システム
- BIツール
- 店頭センサー
- クラウド型POSレジ など
2.指標を決める
収集する属性データと、収集に使うツールが決まったら、そのなかでどのデータを集めるのか指標を決めていきます。
主に以下のようなものがあります。
- 解約率
- SNSシェア数
- 広告クリック単価
- LP経由のコンバージョン率
- オウンドメディアへの流入経路
- 動画コンテンツの視聴時間 など
例えば、次のように指標を決めましょう。
- ECサイトからの購買の利益率を増やしたい場合
広告クリック単価、コンバージョン率、LPの滞在時間
- オウンドメディアでのホワイドペーパーダウンロード数を増やしたい場合
オウンドメディアへの流入経路、滞在時間、ダウンロードしたユーザーの属性
- SNSでのエンゲージメントを高めたい場合
フォロワー数、フォロワーの属性、シェア数、コメント数
3.不完全でも、スタートする
データドリブンマーケティングは、はじめから完璧を目指さずに、不完全であってもスタートすることが大切です。
収集するデータや使用するツールの精査に時間がかかりすぎると、なかなかはじめることができず、データドリブンマーケティングの導入自体が遅くなっていきます。
データが増えていかないことには分析はできません。早めにスタートできるようにしましょう。
4.分析から、少しずつアップデートする
データ収集をしながら、データを分析し、少しずつアップデートしていきます。
例えば、WEBサイト解析ツールとSNS解析ツールだけの導入でも、適切なデータ分析とより成果につながるマーケティング戦略立案ができれば、利益が生まれます。その利益を営業システムやBIツールの導入に投資するなど、アップデートしていきましょう。
5.人材に投資し、さらに拡大する
データ収集ツールに投資することも重要ですが、人材に投資することも重要です。
ツールが整備されても、データを読み解き、活用するためには、アナリストが必要です。人材採用をおこなったり、人材育成としてデータ分析の社内研修を開催したり、人材に投資することも念頭に、データドリブンマーケティングをはじめてください。
まとめ
データドリブンマーケティングを導入することで、より正確で効果的なマーケティング戦略を構築することができ、ビジネスの成長の加速につながります。
また、完璧を求めすぎず、少しずつ改善を繰り返しながらデータドリブンマーケティングを成功させましょう。
的確なデータドリブンマーケティングを行うことで、持続的な成長を実現できるはずです。