現代のビジネスの形は、モノづくりからコトづくりへと移り変わりつつあると言われています。価値交換をして製品やサービスを「買ってもらったら終わり」ではなく、購入後までを含めたユーザーの体験価値を高めることが重視されています。
特にサービスドミナントロジックは、企業とユーザーが価値を「共創」することが重要であると説いています。
今回は、サービスドミナントロジックの基本、具体的な企業事例、活用方法などについてご説明します。
サービスドミナントロジックとは?
サービスドミナントロジックは、2004年にアメリカのマーケティング研究者らが提唱した、あらゆる経済活動と経営活動を「サービス」として捉える理論のことです。
サービスドミナントロジックにおいて、商品の価値は、一方的に企業側が提供するものではなく、ユーザーと共に創出するものとされています。
2000年代、次々にWEBサービスが生まれ、ニーズは多様化していきました。インターネットやSNSを通じて、ユーザーがよりよい製品やサービスを見つけることも非常に容易です。
そのため、近年はUX(ユーザーエクスペリエンス)の重要性が説かれ、商材を通じたユーザー体験までを含めたサービス設計は、ビジネスの基本となりつつあります。
そんななか、ユーザー体験をより充実させる考え方として、ユーザーとの「共創」を目指すサービスドミナントロジックが一層注目されるようになりました。
グッズドミナントロジックとの違い
サービスドミナントロジックの対義語として、「グッズドミナントロジック」があります。
グッズドミナントロジックは、従来の商売理論で、価値交換を基礎としています。つまり、売り手である企業が商品(グッズ)の価値を決定して販売し、その価格に納得したユーザーが対価を支払って、商品を購入するというものです。
モノとサービスが一体化しているサービスドミナントロジックに対し、グッズドミナントロジックではそれぞれ単体で捉えられています。
また、サービスドミナントロジックでは企業とユーザーの関係性が、購入前から購入後も続きますが、グッズドミナントロジックでは企業とユーザーの接点は主に購入時のみに限られます。
サービスドミナントロジックのメリット・デメリット
それでは、サービスドミナントロジックには、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
サービスドミナントロジックのメリット
リピート率・継続率の向上につながる
サービスドミナントロジックにおいては、ユーザーは企業と一緒に価値を創造する主体です。ユーザー自身が価値の最大化に参加することで、ユーザーの愛着度は高まります。また、サービス形態によっては、ユーザー自身がサービスを利用して価値を最大化する、責任感も生まれます。
共同で価値を創造していくことで、企業とユーザーの関係性が構築され、リピート率・継続率の向上につながるのです。
この点に関しては、本コラム内「サービスドミナントロジックの成功事例」を参照いただければ、より深く理解していただけるはずです。
より良い製品・サービスづくりについて考えるきっかけになる
サービスドミナントロジックを取り入れようとすると、その場での交換価値の最大化でなく、ユーザーが購入したあとの使用価値の最大化を考えることになります。そのため、これまでとは視点を変えて、製品・サービスの内容や展開を検討しなければなりません。
実際にサービスドミナントロジックを取り入れる場合に限らず、サービスドミナントロジック的な視点で考えるだけでも、新しい発想や発見が生まれ、製品・サービスの改善のヒントが見つかります。
サービスドミナントロジックのデメリット
ユーザーが参加してくれなければ価値を最大化できない
サービスドミナントロジックのもっとも大きなデメリットとなるのが、ユーザーの主体性が必要となる点です。また、ユーザーが共創する場合であっても、どれくらいの主体性を持って製品・サービスを活用してくれるかは、それぞれ異なります。ユーザーによって満足度が異なる可能性があるということです。
そのため、サービスドミナントロジックを活用する前提であったとしても、製品やサービス単体でユーザー満足度の高いものを提供することが重要です。
すべての製品やサービスに当てはまるわけではない
提唱者は、サービスドミナントロジックのことを「理論」というよりも「価値観」だと説いています。つまり、あらゆるマーケティング理論と比べて、サービスドミナントロジックが必ずしも万能なフレームワークではないことを示唆しています。
サービスドミナントロジックを実行すれば、どんな製品やサービスも売れるようになるというわけではありません。
例えば、家電製品のような機能性が重視される商材の場合、その機能が完全でなければユーザーは不便と感じます。
また、サービスドミナントロジックに向いている製品であっても、まずはSTP分析や7P分析といった基本的なフレームワークに沿ったマーケティング戦略を立てることが重要です。基本的なフレームワークを満たす良い戦略の上でこそ、サービスドミナントロジックは効果を発揮します。
サービスドミナントロジックの成功事例
ここからは、サービスドミナントロジックを取り入れ、うまく製品・サービス展開している企業事例について見てみましょう。
食品:ユーザーが味を完成させる
ファストフード店のフライドポテトには、ユーザー自身がパウダーを選んで味付けできるメニューがあります。このように、ユーザーが味を完成させる商品は、サービスドミナントロジックの定番といえます。
無印良品が販売していた「素のままポテトチップス」は、ポテトチップスと味付けパウダーを同時販売して大ヒットとなりました。オンラインと連携して、味付けの人気投票や新しいパウダー開発権プレゼントなども展開されていました。
また、2023年には西日本限定で販売された、明治のお菓子「シャカシャカカール」も人気を博していました。カールには味付けがないうえに、パウダーも販売されておらず、ユーザーが自宅にある調味料で味付けをするというコンセプトでした。
これらのように、完結した商品として売るのではなく、ユーザーに主体性を持たせることで、ユーザーが味を選ぶ過程・パウダーをまぶす体験・また違う味で楽しみたくなるリピート効果を生み出しています。
電子書籍:ユーザーが持ち運べる本棚を創っていく
Amazonの「Kindle」、大日本印刷の「honto」、KADOKAWAグループの「BOOK WALKER」など、電子書籍などを閲覧するアプリもサービスドミナントロジックの一例です。
提供されているアプリをダウンロードするだけでは、これらのサービスの価値は完成しません。ユーザーが電子書籍を購入し、アプリ上で管理・読書をしてはじめて、サービスが完成するのです。
これによって、ユーザーは「いつでも自分の好きな本や雑誌を読む」という体験が得られます。つまり、持ち運べる本棚をユーザー自身が創っていくことになります。
スポーツ:ユーザー自身で健康を管理する
ナイキが提供するスマートフォンアプリ「Nike Run Club」は、ランニング記録を管理でき、SNSにも投稿できるサービスです。
ユーザーが購入したナイキのシューズを登録することができ、ナイキのシューズを複数持っている場合は、シューズごとの走行距離も計測できます。
ユーザーが走ったルートや距離は、GPS機能を使って記録します。また、分析機能によってランニングの質を向上させることにも役立ちます。
ナイキはユーザーの利用用途に着目し、シューズ販売を超えた価値を創出しています。通常であればグッズドミナントロジックで完結するシューズというプロダクトに、うまくサービスドミナントロジックを活用した好例といえるでしょう。
プラットフォーム:ユーザー自身が、ユーザーを見つける
空いている部屋を貸したいホストと部屋を借りたいゲストをつなぐプラットフォーム「Airbnb」や、売りたいものを持つ人が買いたい人を探すプラットフォーム「メルカリ」などは、サービスドミナントロジックの最たる例だといえます。
サービス自体はプラットフォームであり、売り手ユーザー自身が、買い手ユーザーを見つける必要があります。プラットフォームを活用することで、売り手はゼロから集客をすることなく、買い手を見つけられます。また、買い手側も1つのWEBサイトやアプリを訪れるだけで求めている部屋やモノに出会うことができ、便利です。
企業とユーザーの二者間ではなく、企業、売り手、買い手に分けた三者間で価値を創造する、より進化したサービスドミナントロジックといえます。
サービスドミナントロジックを製品やサービスに活用する方法
サービスドミナントロジックは、個々の製品やサービスの価値を高め、ほかのサービスや事業展開にも活かすことができます。
ここでは、サービスドミナントロジックの具体的な活用方法をご紹介します。
まずは、ユーザーを知る
サービスドミナントロジックでは、ユーザーの嗜好や行動傾向を探ることができます。
例えば、ポテトに味付けをするユーザーの中で、どのパウダーが人気なのかを知ることができます。書籍アプリであれば、どんなユーザーがどんな本を読むのか、データを取得できるでしょう。
WEBサービスであれば、購入に至ったプロセスなどを知ることもできます。
サービスドミナントロジックを設計する際には、このようなデータを集めやすいスキームや方法を考えることが大切です。
ユーザー情報を整理する
次に、ユーザーの情報を整理しましょう。データから読み解けることは多岐に渡ります。単に人気の味やコンテンツを知るだけでなく、属性・地域性・時間帯など、さまざまなことがわかります。
これらを整理することで、より的確にユーザーの嗜好に合わせて商材をブラッシュアップできます。
また、カスタマージャーニーマップなどを取り入れて、ユーザーがサービス購入に至るまでの意思決定プロセスを整理すれば、改善策や適切なタイミングを図ることができるでしょう。
集めたデータを用いて改善・開発する
サービスドミナントロジックの活用で得たデータは、いわば、ユーザーの生の声です。さらなるサービス向上に活用しましょう。また、新しい製品の開発にも活用できます。
企業だけで企画を考え続けるよりも、ユーザーの実際の体験から受け取ったフィードバックの方が、より多くのユーザーが求めるものに近いはずです。また、すでに利用しているユーザーに向けては、使い続ける理由を増やすことになります。
うまくサービスドミナントロジックを活用することで、効率的かつ本質的にユーザーのニーズに応えられるのです。
まとめ
サービスドミナントロジックを活用して製品やサービスを開発・展開するには、ユーザーの購入後の体験を予測・把握し、きちんと設計することが欠かせません。
ユーザー理解をさらに深めるためのフレームワークの1つに、カスタマージャーニーがあります。サービスドミナントロジックを取り入れる前に、また、サービスドミナントロジックをさらなる製品開発などに活かす際にも、カスタマージャーニーを意識して、設計していくのがおすすめです。
カスタマージャーニーについては、無料でご覧いただける資料にまとめていますので、ぜひご活用ください。