7P分析というフレームワークをご存知でしょうか。
マーケティングの成果を高めるには、製品そのものだけでなく、製品を提供するプロセスやユーザーとのコミュニケーションの質を高めることがポイントです。
そこで本コラムでは、7P分析を中心に、4Pとの違い・企業事例・具体的な活用方法までご紹介します。
7Pの前提となる、サービスマーケティングの考え方
7P分析について解説する前に、まずはサービスマーケティングについて理解しておく必要があります。
サービスマーケティングとは、サービス業、あるいは製品とサービス提供がセットになった商材において、顧客体験や商品提供時のサービスに焦点をあてたマーケティングのことです。
例えば、店舗で有形の製品を売っているとします。しかし、製品に付随するサービスとしては、以下の要素も大きな価値となります。
- 店頭スタッフのコミュニケーション
- 店舗の雰囲気
- メニューの充実
- ポイントカードの提供
- 事前予約の受付
製品だけの価値や魅力だけでなく、ユーザーと関係を構築したり、ユーザーの期待を管理することによって、リピーターや売上の向上を目指すのが、サービスマーケティングなのです。
7P分析とは
7P分析とは、サービスマーケティングを成功させるにあたって、具体的な施策を考えるために活用できるフレームワークです。
7Pは、1960年代、マーケティング学者であるジェローム・マッカーシーが提唱した4P(製品・価格・プロモーション・流通)に、1970年代、アメリカの経営学者・マーケティング学者のフィリップ・コトラーが、さらなる3P(物理的証拠・サービスプロセス・人)を加えた概念です。
まとめると、サービスマーケティングの戦略を立てる際に検討すべき7Pは、次の7つになります。
- Product(製品)
- Price(価格)
- Promotion(販売・宣伝)
- Place(場所・流通)
- Physical Evidence(物理的証拠)
- Process(サービスプロセス)
- People(人)
4P分析と7P分析の違い
4P分析で重視されていることは、次の通りです。
- Product(製品):市場ニーズに合わせたよい製品をつくること
- Price(価格):ターゲットや市場に見合った妥当な価格であること
- Promotion(販売・宣伝):効果的にターゲットに届ける営業や販売促進を行うこと
- Place(場所・流通):効率的で適正な流通経路があること
有形の製品が主流であった時代は、目に見えてわかりやすい指標を重視していました。
その後、新たに無形サービスが登場し、さらに有形製品を売るためにも無形サービス的な要素が重要になったことで、次第に7P分析が主流になりました。
7P分析では、4P分析の要素に加えて以下のことを重視します。
- Physical Evidence(物理的証拠):サービスの品質を目に見えるように表すこと
- Process(サービスプロセス):ユーザーが快適かつ効率的に購買できること
- People(人):スタッフの接客やコミュニケーションが優れていること
市場全体におけるモノの種類、質が上がるにつれ、ユーザーにとってどの製品を選ぶべきかを、決めるのは難しくなります。3Pが追加され付加価値が充実することで、製品そのもの以外の要素から、購入するものを選びやすくなります。
7P分析、7つのPを具体的に解説
ここからは、7Pの各要素について、具体的にご説明します。
Product(製品)
Product(製品)は、市場ニーズに合わせたよい製品をつくることを指します。
設計や品質はもちろん、パッケージデザインも含めて、ユーザーにとって物理的に魅力を与える製品であることが大切です。また、メニューの多さや最適化も、Productにおける検討事項です。
Price(価格)
Price(価格)は、市場調査や競合調査によって、自社が販売すべき製品の価格を見極めることです。
製品の特性やターゲットによっては、平均値よりも低価格であるほうがよいケースもあれば、高級品として価格設定をするほうがよいケースもあります。自社にとって適切な価格を見極めることが重要です。
Promotion(販売・宣伝)
販売・宣伝(Promotion)では、製品をどのように販売するのか、製品をいかに効果的にターゲットに届けるのかを重視します。
購入を検討している方への営業はもちろん、宣伝などの販売促進を行うことによって潜在的なターゲットへのアプローチも重要です。製品のよさを多くの人に知らせ、実際に購入してもらうためにどうすればよいかを計画しましょう。
Place(場所・流通)
Place(場所・流通)は、企業が製品を提供する場所や流通経路です。
例えば、たまたま店舗が安価で空いていたからという理由で借りるのではなく、本当に自社製品を展開すべき場所かどうかを見極めることが重要です。
近年は、オンラインで情報発信する場所や広告掲載する場所なども、Placeに含んで検討すべきだとされています。
Physical Evidence(物理的証拠)
Physical Evidence(物理的証拠)とは、製品以外にも目にみえる形で表現されたもののことです。
例えば、店舗のデザインやインテリア、WEBサイトのデザイン性や使いやすさ、メニューの充実性、パンフレット、ソーシャルメディアの評価、受賞や取材の実績などのことを指します。物理的証拠を充実させることも、サービスマーケティングの成功につながる1つのポイントです。
Process(サービスプロセス)
Process(サービスプロセス)とは、製品を提供する過程のことです。
購入までのプロセスが複雑で時間がかかると、ユーザーが購入に至らない可能性が高まります。例えば、SNSで見つけた製品を購入する際、なかなか購入ページに辿りつけないケースや入力項目が多すぎるケースはユーザーが離脱しやすい典型です。スムーズに届ける設計を行いましょう。
People(人)
People(人)は、サービスを提供するスタッフの言動やコミュニケーションの質を高めることです。同じ製品を売っていても、対応したスタッフによってユーザーの満足度が大きく変わることもあります。
また、ユーザーからクレームがあった際も、スタッフの対応によってユーザーが怒るどころか、さらにファンになることもあります。
企業事例から見る、7Pのポイント
ここからは、7Pをうまく設計し、サービスマーケティングに成功している企業事例をご紹介します。
スターバックスコーヒー
世界的なコーヒーチェーン店であるスターバックスコーヒーですが、提供している商品の種類は、国によって異なります。
例えば、さくらフル フラペチーノ・抹茶ティーラテ・ほうじ茶ティーラテなど、日本特有のメニューがあります。ギリシャにはヨーグルトフラペチーノ、アメリカにはコットンキャンディ フラペチーノなど、それぞれの国でメニューが異なるのは、土地に合わせたサービスマーケティングです。
また、多くのユーザーがアクセスしやすい店舗の立地も、成功のポイントです。例えば、東京都では千代田区に50店舗、港区に43店舗、渋谷区に40店舗など、人の多さに応じて多くの店舗を展開しています(2024年3月時点)。
販売・宣伝戦略として、ユーザーの共感を上手に生み出すようなSNS投稿や、期間限定メニューなどによる口コミ促進も、非常に7P活用の参考になります。
- Product(製品)
- 国ごとに合わせたメニュー展開
- Place(場所・流通)
- 立地や店舗数の多さ
- Promotion(販売・宣伝)
- SNS投稿や口コミ促進
ディズニーリゾート
ディズニーランドやディズニーシーの成功にも、7P戦略のヒントが多く見受けられます。
ディズニーリゾートのメインサービスはテーマパークですが、アトラクションと同じくらい注目されているのが、レベルの高い接客です。キャストの丁寧で笑顔や明るさを絶やさない接客には、多くの方が元気づけられ、安心して遊ぶことができます。おもてなしに感動したユーザーは、また訪れようと思うものです。
サービス提供までのプロセスにも特徴があります。駅を降りてすぐに聴こえてくるディズニー音楽、キャラクターたちに会えるエントランス、歩いているだけで楽しい景色やショップの充実、待ち時間にも楽しめるアトラクションの内装など、多くの例があります。
また、全国にはディズニーストアという店舗を展開。テーマパーク外でもユーザーの心を離さない工夫も、サービスマーケティング成功の大きな要素です。
- People(人)
- レベルの高い接客
- Process(サービスプロセス)
- メインサービス提供までのプロセス
- Physical Evidence(物理的証拠)
- 関連グッズの充実
マクドナルド
マクドナルドも、サービスマーケティングの代表的な成功事例として知られています。
マクドナルドといえば、低価格な商品展開が大きな特徴です。自社製品の市場やターゲットによって適切あるいは期待を上回る価格設定で、幅広いユーザーを獲得しています。
接客では、スマイル0円をはじめ、迅速な応対にも定評があります。丁寧な接客のみならず、誰もが注文からお渡しまでをすばやく行えるように徹底されたオペレーションも、7PのPeople(人)戦略において、重要なポイントです。
また、いち早く導入されたモバイルオーダーのシステムや、タッチパネル式セルフレジによって、さらに効率的で待ち時間ストレスの少ないサービスプロセスを実現しています。
- Price(価格)
- ユーザー満足度を追求した価格設定
- People(人)
- 丁寧な接客と迅速なオペレーション
- Process(サービスプロセス)
- モバイルオーダーやタッチパネル式セルフレジの導入
7P分析を活用して、サービスマーケティングを成功させる方法
では、実際に7P分析を使ってサービスマーケティングを成功に導くには、どうすればよいのでしょうか。活用のポイントをお伝えします。
4P分析をしたあと、7P分析を行う
まずは4P分析を行い改善し、それを基礎として、プラス3Pを付加価値として考えることが、7P分析のコツです。なぜなら、まずは市場ニーズに合わせたよい製品やサービスをつくり、最適な場所で販売することが重要だからです。
例えば、ECサイトで手軽に、快適かつ効率的に購買できるからといって、ユーザーがある製品を購入したとします。しかし、使ってみるとすぐに壊れてしまったとすれば、それはユーザーに満足感を与えるどころか、落胆につながるでしょう。
また、スタッフの接客やコミュニケーションが優れていたために、価格が高いと感じていたけれど意を決してある製品を購入したユーザーは、帰宅後、冷静になってみると後悔してしまうかもしれません。
Product(製品)・Price(価格)・Promotion(販売・宣伝)・Place(場所・流通)が適しているというベースのうえで、Physical Evidence(物理的証拠)・Process(サービスプロセス)・People(人)の最適化を目指しましょう。
PDCAサイクルや SERVQUALモデルを取り入れる
1度、7P分析を行って最適化したとしても、ユーザーニーズや時流によって、適切な各項目のあり方は変化していくでしょう。そこで、PDCAサイクルを意識し、定期的な評価や改善を行うことが大切です。
また、評価基準として、SERVQUALモデルを活用することもおすすめです。『SERVQUAL(サーブクオル)』とは、サービス(Service)と品質(Quality)を組み合わせた造語であり、サービスそのものの品質を測る指標です。
SERVQUALモデルでは以下の5項目において、顧客の期待するサービス水準と、実際のパフォーマンスとのギャップを埋めることで、サービスの品質向上を目指します。
- 信頼性
- ユーザーに提供すると約束されているサービスが確実に提供されているか
- 反応性
- 迅速にサービスを提供できているか
- 有形性
- 施設・設備・従業員の服装や従業員の様子など、目に見える環境は適切か
- 共感性
- 従業員がユーザーに関心と配慮を持ち良好なコミュニケーションがとれているか
- 確実性
- 必要な専門スキルや知識を持ち、確実にサービスを提供できているか
カスタマージャーニーを考える
7P分析を行い、サービスマーケティングを成功させるにあたって、考慮したいことの1つにカスタマージャーニーがあります。
カスタマージャーニーとは、「顧客の購買までの道のり」を表すフレームワークです。
ユーザーがProduct(製品)を知り、Price(価格)を確認し、Promotion(販売・宣伝)によってさらに購買意欲が掻き立てられ、Place(場所・流通)に出向く、またはオンラインで購入するなどのアクションを起こす過程で、どのような思考や感情を抱くでしょうか。
それらに着目し、よりProcess(サービスプロセス)を充実させるために何をすべきか、Physical Evidence(物理的証拠)やPeople(人)の最適化を図りましょう。
このようにカスタマージャー二ーを描くことは、7Pの最適化とサービスマーケティングの成功につながります。
まとめ
サービスマーケティングの考え方や7P分析は、いまや企業にとって欠かせないものになっています。
モノやサービス、ユーザーニーズが多様化するなか、選ばれ続ける企業であるために、ぜひ7P分析をはじめ、本記事でご紹介したSERVQUALモデルやカスタマージャーニーも取り入れてください。
カスタマージャーニーについては、具体的に解説した資料をご用意しています。こちらもぜひご活用ください。