近年、EC・マーケティング業界において『ライブコマース』という言葉を耳にする機会が増えました。
SNSをきっかけにヒット商品が生まれることも珍しくない現在、多くの企業がライブコマースに取り組み始めています。
このコラムでは、ライブコマースの基本情報や具体的な事例・マーケティング戦略までわかりやすく解説します。
「ライブコマースを実施してみたい」
「ライブコマースに必要な準備を知りたい」
という方はぜひご覧ください。
ライブコマースとは
ライブコマースとは、SNSなどのライブ配信機能を使った販売手法を指します。
リアルタイムで配信される動画内で、ユーザーとコミュニケーションを取りながら商品やサービスを紹介し、購買を促します。メーカー企業の社員や店舗スタッフが配信するケースもあれば、インフルエンサーなどに依頼するケースもあります。
従来のオンライン販売では難しかった、企業とユーザーが双方向的に接客体験できる点が大きな特徴です。
詳しいメリットについては、ライブコマースのメリット・デメリットで解説します。
中国のライブコマース市場
諸外国のなかでも、特に中国でライブコマース市場が大きく拡大しています。
中国のライブコマース市場は2019年では4,338億元(約9兆円)であったのに対し、2021年には1兆9,950億元(約40兆円)近く成長※、今後も拡大すると見込まれています。※(1元=約20円)にて計算。
中国でライブコマースが拡大した理由として、中国独自のSNS市場とKOLの2つが考えられます。
中国独自のSNS市場
中国国内では、「グレート・ファイアウォール」と呼ばれる独自のインターネット規制が行われており、YouTubeやInstagramといった世界的なSNSは使えません。
その代わり、TikTok(抖音直播)や大手通販企業のアリババが提供するTaobao Live(淘宝直播)など中国発祥のSNSがしのぎを削っています。独自のSNS市場で中国のIT企業が競合することで、SNSマーケティングの急速な発達につながっています。
KOL
中国のライブコマース市場では、KOL(Key Opinion Leader)という特定のカテゴリに専門性を持つインフルエンサーが存在します。
模倣品や粗悪品の多い中国のEC業界において、KOLの意見は信頼度が高く、爆発的な売上につながることも珍しくありません。『買い物で失敗しないために、KOLから購入する』というマインドが働いています。
日本のライブコマース市場
一方、日本のライブコマース市場規模を具体的に示した資料は少なく、販売手法として定着しているとは言いがたいのが現状です。
日本においては中国のようなインターネット規制などはなく、偽物が横行するようなケースも限定的なため、中国とは消費背景が異なると考えられます。
しかし、2020年〜2022年頃の新型コロナウイルスの流行をきっかけに、一部のEC企業でライブコマースが導入されていきました。さらに、外出自粛に伴い、人々の消費行動のオンライン化が進みました。
自粛期間が明けた現在でも、ライブコマースを行う企業を見かけます。ということは、企業にとってライブコマースを行うメリットがあるということです。
次の章では、ライブコマースを行うメリット・デメリットについて考えます。
ライブコマースのメリット・デメリット
では、ライブコマースにはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。正しく理解して、導入を検討してみましょう。
ライブコマースのユーザー側のメリット
ライブコマースのユーザー側のメリットは、主に以下の3つが挙げられます。
- 商品の詳細が把握できる
- 配信者にその場で質問できる
- 来店せずに購入しやすくなる
商品の詳細が把握できる
ライブコマースは動画形式の訴求となるため、商品の詳細が把握しやすくなります。生地の質感やサイズ感など、WEBサイトの画像ではわかりにくい情報を補完できます。
例えば、アパレル関連の商材のライブコマースでは、実際に配信スタッフが着用しながら説明するケースがよく見られます。スタッフの身長や体重などを参考にすることで、購入を検討しやすくなります。
配信者にその場で質問できる
ライブコマース中、視聴者は配信者に対してテキスト形式で質問を投げられます。商品説明のなかで生まれた疑問点をその場で解消できるため、店舗と同様なコミュニケーションをオンラインで行えます。
ユーザーの中には、対面での質問にハードルを感じている場合もあります。そのため、視聴者が自由なタイミングで質問できる点は大きなメリットになるでしょう。
来店せずに購入しやすくなる
ライブコマースで疑問点が解消されれば、ユーザーは店舗に行かずとも、購入しやすくなります。
「店舗が近くにない」「忙しくて外出が難しい」といったユーザーも、ライブコマースが購入に踏み切るきっかけになり得ます。
また、ライブコマース中は紹介商品のリンクが設置され、購入導線が確保されているケースが多いです。(ライブ視聴→リンク遷移→購入)の流れがスムーズに繋がることで、購入時の迷いが生じにくくなっています。
ライブコマースの企業側のメリット
ライブコマースの企業側のメリットは以下の3つが考えられます。
- 売り手のこだわりや想いを伝えられる
- 顧客層の拡張
- オンライン上で効率的に接客できる
売り手のこだわりや想いを伝えられる
ライブコマースを通して、企業側は売り手のこだわりや想いなど、WEBサイトには書いていない踏み込んだ情報も伝えられます。
世の中の商品一つひとつには、試行錯誤の末に完成した企業の数えきれないこだわりや、伝えたい想いがこもっています。しかし、それをすべてWEBサイトという枠の中で表現するには限界があります。
ライブコマース上では、そうした想いを直接訴えかけることで、視聴者の興味関心を引きつけられます。
顧客層の拡張
WEBサイト上の掲載とライブコマースを組み合わせることで、店舗エリア外へのアプローチが可能となります。
例えば、あるエリアに1店舗のみの出店であった場合、遠方に住んでいるユーザーは店舗には行きづらいでしょう。そこで、ライブコマースでユーザーに代わって商品を試着したり、実演することで、店舗付近のエリア以外の視聴者も見込み顧客になる可能性があるのです。
オンライン上で効率的に接客できる
ライブコマースは視聴者が増えるほど、実施効果が高まります。
通常、オンライン上の企業からの情報発信は一方通行になりがちです。その点、ライブコマースはオンライン上の接客が可能となるため、視聴者に擬似的な接客体験を提供できます。
仮に2名のスタッフで配信視聴者数が500人の配信となった場合、2名のスタッフが500人に接客する状態と考えれば、視聴者が増えるほど、どれだけ効率的な接客になるか想像できるでしょう。
ライブコマースの企業側のデメリット
- 配信準備が必要
- 配信者によって偏りが出る
詳しく解説します。
配信準備が必要
1つ目のデメリットは、進行や台本、照明や背景など、準備が必要なことです。
せっかくライブコマースに視聴者が集まったとしても、進行の手際が悪い、質問に答えられないといった様子が見えると、かえって印象を悪くしてしまう可能性があります。配信環境や、事前に想定される質問の回答などは、準備しておく必要があるでしょう。
配信者によって偏りが出る
2つ目のデメリットは、配信者によって視聴者数に偏りが出る可能性があることです。
ある程度ライブコマースに人気が出てくると、「この人の配信が見たい」というニーズも生まれる可能性があります。そうした際、配信者の人気に偏りがあると、「別のスタッフでは視聴者が集まらない」、「反応が少ない」など集客が不安定になることも考えられます。
2名以上の複数名で配信するなど、視聴者の反応を見ながら出演者の調整を進めていくとよいでしょう。
ライブコマースの成功事例
ライブコマースの成功事例①:資生堂
化粧品メーカーの資生堂は、自社の新商品の使い心地やおすすめの使い方を配信しています。公式サイトの配信では、動画内で紹介中の商品が固定表示され、気になった人はすぐに詳細ページにアクセスできる動線が設置されています。
また美容スタッフ以外にも、開発メンバーや愛用者の著名人など、さまざまなゲストが登場することで、視聴者を飽きさせない工夫が見てとれます。
公式サイトとInstagramの公式アカウントの2つで同時配信を行い、集客力を引き上げていることも特徴です。
ライブコマースの成功事例②:ユニクロ
ファッション・アパレルの製造販売を行うユニクロは「UNIQLO LIVE STATION」というライブコマースを展開しています。
専用アプリでは商品ごとに着用動画を設置するなど、動的コンテンツに注力している同社。ライブコマースでは、明るい雰囲気で視聴者とコミュニケーションを取りながら配信しています。
特徴的なのは、身長や髪型、服の色味や雰囲気がすべて異なる複数人が登場していることです。ライブの冒頭や着用シーンでは、着用スタッフの身長や骨格、ベースカラーが表示されており、視聴者が自分自身に近いスタッフを参考にしやすくなっています。
購買者のターゲット層が広いユニクロならではと言える工夫でしょう。
ライブコマースの成功事例③:三越伊勢丹
百貨店を運営する三越伊勢丹では、お中元のライブコマースを実施し、お中元オンラインストア全体の売上も前年の約2倍を記録しました。
動画では大切な人へのギフト選びのヒントとして、ワインソムリエやバイヤーをゲストに迎え、トークセッション形式で展開しています。
三越伊勢丹ならではの素材や商品背景にこだわった逸品を、専門家による深い目線の解説が加わり、購買意欲を引き立てます。購入時は画面右上の「今すぐ購入」からすぐにカートに入れられるため、温度感を保ったまま、購買を促せます。
ライブコマースと相性の良い商材・悪い商材
ライブコマースと相性の良い商材
ライブコマースと相性の良い商材は以下の特徴が挙げられます。
- 華やかな商材
- トレンド性が高い商材
- 試すことが前提となる商材
ファッション・美容・雑貨・食品といった、「SNS映え」しやすい商材はライブコマース向きといえます。実際に着用しているシーンや調理法などをプロの目線で紹介することで、購買意欲を刺激できるでしょう。季節ごとに異なる商品を展開できるため、視聴者を飽きにくくさせられます。
ライブコマースと相性の悪い商材
ライブコマースと相性の悪い商材としては、以下の特徴が考えられます。
- 無形商材
- 見栄えが薄い商材
- ターゲットの年齢層が高い商材
WEBサービスなどの無形商材や、効果が見えにくい健康食品などは、ライブコマースにはやや不向きです。SNSをあまり使用しない年齢層の高い商品も、ライブコマースの効果は得にくいでしょう。どうしても実施する場合は、サービスの利用動画や、使用のビフォーアフターの素材を用意するなど、工夫が必要です。
ライブコマースに必要な準備
最後に、ライブコマースを実施するために必要な準備項目を紹介します。
配信機材
ライブコマースは、最低限スマホ1台とネット回線があれば配信を始められます。しかし、配信の見栄えが悪いと、視聴者が離脱してしまう原因にも繋がるため、照明や背景、マイクなどは用意しておくことをおすすめします。
- 必需品
- スマートフォン、インターネット回線
- あるといいもの
- 照明、マイク、外部カメラ、三脚、背景セット
- さらにこだわる場合
- 字幕ソフト、エンコーダーソフト、音声ミキサーなど
店舗を持っている場合は、店舗内で配信するのも1つの方法です。店舗の雰囲気が視聴者に伝わりやすくなります。
配信環境
ライブコマースを行う配信プラットフォームを選定する必要があります。配信環境としては、おもに下記の4種類があります。
-
- SNS
- YouTubeやInstagramなどの公式アカウントから発信
- 配信アプリ
- 17やSHOWROOMなどのライブ配信専用アプリ
- ECモール
- ECモール内のライブ配信機能を活用
- 自社サイト埋め込み
- 自社サイトに配信機能ツールを埋め込む
公式SNSから配信するケースが多いですが、「SNSフォロワー数が少ない」「自社サイトのアクセス数が多い」など、場合によって他の選択肢も検討しましょう。
配信者
ライブ配信に関わる人員を用意しましょう。
一般的には自社の販売スタッフや商品担当が出演するケースと、インフルエンサーや著名人など、外部に依頼するケースがあります。
売り手のこだわりを伝えたい場合は自社、消費者としての意見が欲しい場合はインフルエンサーに依頼することがおすすめです。
商品在庫・購入導線
ライブ配信の際は、紹介商品の在庫を準備する必要があります。できるだけ過不足のない在庫数を確保するために、視聴者数を予測しましょう。
予測方法としては、SNSのフォロワー数や、自社サイトの訪問ユーザー数など、配信プラットフォームに応じた数値を参考にするとよいでしょう。
また、紹介商品のリンクやお問い合わせ先など、迷いなく購入動線を進めるように整備することも重要です。
告知
ライブ配信日が決まったら、メルマガやSNSなどで告知して、集客効果を高めましょう。
配信の1週間前、前日、当日といったように、複数のタイミングで告知を行い、見落としの視聴者が出ないようにします。「残り〇日!」や「本日開催!」のように具体的な日数を記載しておくと、緊急性を伝えやすくなります。
台本・トークマニュアル
本番までは、台本やトークマニュアルを作成してリハーサルを行い、配信のクオリティを高めましょう。
出演者によっては、「言い回しまで台本が決まっていたほうが話しやすい」「要点だけ頭に入れるほうが話しやすい」など、タイプが異なる場合があります。台本を作る前にすり合わせをしておくとよいでしょう。
また、特に社内でライブコマースを行う場合、紹介商品に関する情報はしっかり理解しておく必要があります。視聴者の質問にスムーズに回答できるよう準備しておきましょう。万が一回答できなかった場合のフローなども決めておけば、落ち着いて対処しやすくなります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本コラムでは、ライブコマースの基本情報から、事例、準備のポイントまでご紹介しました。
A8.netでは、顧客行動や顧客心理の理解に役立つ「カスタマージャーニーの描き方」を配布しています。
適切なターゲット理解のヒントとして、ぜひご活用ください。