新商品やサービスを立ち上げたものの、「商品が全く売れなかった」「ユーザーからの評判が良くなかった」というケースは誰しも聞いたことがあるのではないでしょうか。
そのまま運営経費だけがかさみ、販売停止やサービス終了になってしまうのは避けたいものです。
そういった事態を避けるためには「STP分析」の活用がおすすめです。
STP分析は、少ないリソースで有力なマーケティング戦略を立案できる、優れたフレームワークです。
STP分析を活用すれば、自社がどのポジションからサービスを提供すべきかが明確になります。したがって、顧客に支持される商品を提供する方法を知りたい方は、STP分析を活用するとよいでしょう。
今回は、STP分析の意味や具体的な使い方、企業の活用事例などについてわかりやすく解説します。
STP分析とは?
STP分析とは、マーケティング戦略を立てる3つのステップである、Segmentation・Targeting・Positioningの頭文字をとった言葉を意味します。
STP分析は、有名な経営学者である、フィリップ・コトラーが提唱したフレームワークです。自社の立ち位置を明確にできることから、今では多くの企業がSTP分析を活用しています。
STP分析の最大の特徴は、自社のポジションを明確にして、最適なマーケティング戦略を立案できることにあります。
ここからは、STP分析の要素をそれぞれ見ていきましょう。
Segmentation(市場の細分化)
Segmentationでは、大きな市場を小さなグループに分ける作業を行います。例えば、年齢や性別、地域や趣味など、さまざまな要素で市場を分けてグループを作りましょう。
Segmentationの方法は、以下の4つの基準で詳しく細分化できます。
- 地域で細分化する(地理的変数)
- 人で細分化する(人口動態変数)
- 心理ごとに細分化する(心理的変数)
- 行動ごとに細分化する(行動変数)
各要素を順番に解説していきます。
地域で細分化する(地理的変数)
地域での細分化には、地理的変数という指標を活用します。地理的変数とは、その土地の地形や気候、人口数などの要素を意味します。
例えば、人口が多く時間に追われるビジネスパーソンが多いエリアでは、地方に比べると手軽に商品を購入できるコンビニが多いです。一方で、地方の場合は自宅で料理をする方々が多く、大型スーパーや農業物産直売所などが多くみられます。
また、北海道と沖縄では気候の差が異なることから、その地域のニーズは異なります。
このように、地域によって消費者の行動や好みが変わるため、地理的変数を考慮することで、より正確なマーケティング戦略を立てられます。
人で細分化する(人口動態変数)
人で細分化する方法は、年齢や性別、年収や職業などの人口動態変数をもとに市場をセグメントする方法です。
子供向けの商品を開発する場合、その年代で流行っているゲームやアニメのキャラクターを把握する必要があります。大人向け商品の場合、流行よりも機能性やライフスタイルに関連した要素が重要になるかもしれません。
人口動態変数を用いて市場を細分化することで、顧客の細かなニーズをより明確にできるでしょう。その結果、効果的な事業プランを作ることが期待できます。
心理ごとに細分化する(心理的変数)
心理ごとの細分化は、人々の考え方や価値観などの心理的要因(心理的変数)をもとに、市場を細分化する方法です。
つまり、対象顧客の好みや趣味、生活スタイルや価値観などを理解し、その情報をもとにセグメントを行います。
環境保護に関心が高い方々はエコフレンドリーな商品を選びますが、安全性を重視する方々は、保証がついている商品を選ぶ傾向にあります。
消費者の心理を理解することで、顧客の潜在的なニーズに対応した製品やサービスを提供することが可能です。消費者が最も大切にしている感情にも耳を傾けて、満足度の高いサービスを提供しましょう。
行動ごとに細分化する(行動変数)
行動ごとの細分化は、消費者の行動や態度(行動変数)に注目して市場を細分化する方法です。
品質や速さだけではなく、商品やサービスの購入回数や問い合わせ回数も行動変数に含まれます。
行動変数を使った指標でわかりやすい事例は、「1000円カット」です。1000円カットは、カット以外のメニューは存在しないので、10分程度で施術が終了します。したがって、速さを重視する顧客を対象にしていることが理解できるでしょう。
1つのサービスにおいても、消費者の行動によってニーズは異なります。STP分析で消費者がサービスに求めているものを行動ごとに理解できると、適切なポジションの獲得が期待できます。
Targeting(ターゲットを決める)
Targetingでは、Segmentで細分化した市場の中からターゲットを選定します。これは、商品やサービスを「誰に売るか」を決める大切なフェーズです。
ターゲットを決める際は、以下の3つを指標にするとよいでしょう。
- 認知
- 競合
- 市場の成長率
順番に解説していきます。
認知
ターゲットでは、Segmentationで決めたターゲット候補に、自社のサービスを認知してもらえるか考えましょう。
市場を細分化して獲得できそうなターゲットを見つけても、リーチできなければ、商品やサービスを購入してもらうのは難しいです。
ターゲットに認知してもらうには、広告やSNSを活用する必要があります。ただし、ターゲットによって広告の内容やSNSの発信内容は最適化することが大切です。
例えば、健康飲料を販売する場合、図解やテキストを活用して、商品の安全性や機能性などについて説明する必要があります。子供向けのおもちゃを販売する場合、子供が楽しんでいる写真や映像を使用する方が効果を期待できるでしょう。
効果的な認知拡大をするためにも、市場調査をもとにターゲット像を明確にして、適切なマーケティング施策を行いましょう。
競合
参入する市場を見つけた場合は、競合についても詳しく調査しましょう。なぜなら、強力な競合がすでにいる場合、ポジションを獲得できない可能性があるからです。
競合を調べる場合は、競合の数や市場でのシェア獲得率、顧客満足度などを調査しましょう。集めた情報をもとに、競合と差別化できるポイントや新たなターゲット層があるかを確認します。
競合と戦えないと判断できる場合は、市場に参入してもシェアを獲得できない可能性が高いので、市場の設定からやり直しましょう。
また、競合に勝てると判断できる場合も安易に考えず、適切な戦略を立案してからポジションを狙ってください。
市場の成長率
市場の成長率とは、ターゲットのいる市場がこれから大きくなる見込みを意味します。成長見込みのある市場は顧客も増えやすく、売上アップが期待できます。
例えば、近年だとAIや仮想通貨などの市場は年々拡大しているので、チャンスの多い市場といえるでしょう。
一方で、家電やファッションなどの成熟している市場や、出版などの衰退するといわれている市場に参入するのは、競合が多く顧客が減少する可能性があるのでリスクが高いです。
ターゲットを決める際は、ユーザーの属性だけではなく、市場の成長率も意識しましょう。
Positioning(立ち位置を決める)
Positioningでは、自社が参入する市場でどのポジションを獲得するかを決定します。
その際に重要なのは、競合と自社を比較することです。
そして、競合との比較には、ポジショニングマップを活用しましょう。例えば飲食店の場合、下記のように価格と提供スピードで作成できます。
ポジショニングマップとは、SegmentationとTargetingのデータをもとに、競合が市場でどのポジションを獲得しているか確認するための評価軸を指します。
市場の中に大手企業がいる場合、同じポジションを獲得するのは非常に難しいです。
しかし、競合にはない要素で顧客のニーズを満たせる価値を提供できる場合は、競争が激しい市場でもポジションを獲得できる可能性があります。
STP分析の具体的な実践方法
前述では、STP分析の要素について説明しました。
しかし、「STP分析のやり方も詳しく知りたい!」と考える方も多いでしょう。ここからは、STP分析の具体的な実践方法について解説します。
それぞれの手順で解説するので、自社のマーケティングに活用してください。
ステップ1:市場を細分化する
まずは、販売する商品やサービスの市場を分析しましょう。
市場を細分化する際は、提供するサービスの特徴をしっかりと理解する必要があります。なぜなら、市場を細分化しても自社サービスの特徴を理解できていない場合、分析効果を最大限発揮できないからです。
例えば従業員10名の企業がコンサルティングサービスを販売する場合、都心部では競合が多く、価格競争などで企業側の負担が増えて疲弊する可能性があります。しかし対象エリアを地方に限定したり、個人事業主を対象にすることで、競合の数を減らせる可能性があるのです。
このように、自社商材の特徴をしっかりと理解した上でターゲットになるユーザーをセグメントすると、競合の少ない市場を見つけることが可能です。
市場を細分化する際は、提供する商品やサービスのコンセプトをしっかりと決めて、適切なセグメントを行いましょう。
ステップ2:ターゲットを決める
市場の細分化が完了したら、ターゲットを決めていきましょう。ここでは、先ほど切り分けた市場にいる顧客についての分析を行います。
もし、「地方在住で年収500万円以下の個人事業主にコンサルティングサービスを売る」と決めた場合、以下の情報を分析しましょう。
- サービス提供する予定のエリアに競合はいるか
- 年収500万円以下の個人事業主の悩みは何か
- 自社サービスで顧客の悩みを解決できるか
上記はあくまで一例であり、自社にとって必要な情報がある場合は全て集める必要があります。
この際に、圧倒的なシェアを持っている大企業が存在したり、そもそもコンサルタントのニーズがないと判断できる場合は、再度ステップ1から考える必要があるかもしれません。
状況を深く観察して、競合に対して強みを発揮できないか、慎重に考えましょう。
ステップ3:ポジションを決める
ポジションを決める場合は、前述した「ポジショニングマップ」を活用しましょう。今回は、先ほどのコンサルティングサービスを例にした画像を紹介します。
上記の場合、競合A社が最も大きいシェアを獲得しており、高価格×ノウハウのコンサルティングサービスでポジションを獲得するのは非常に困難です。
しかし、ポジショニングマップをよく見ると、高価格×サポート(①)のポジションは空いていることがわかります。
この場合、徹底的に顧客に寄り添ったコンサルティングサービスは需要があるかもしれません。また、大手企業はいち個人に膨大なリソースを使えないため、このポジションが空いている可能性があるのです。
一方で、低価格×ノウハウのポジション(②)も空いていますが、こちらの場合は注意が必要です。というのも、高品質なノウハウを低価格で提供する場合、企業の利益は出ない可能性があります。
したがって、どこの競合も、低価格×ノウハウのポジションは取らない選択をしていると考えられます。
ポジショニングマップを活用すれば、自社が参入できるポジションを明確に理解することが可能です。しかし、競合が全くいないポジションにはリスクが潜んでいる可能性もあるので、注意してください。
企業のSTP分析活用事例
ここからは、企業のSTP分析の活用事例を紹介します。
STP分析を使用する際の参考にしましょう。
スターバックス
スターバックスは、地域(地理的変数)と人(人口動態変数)を活用したSTP分析で、独自ポジションの獲得に成功しています。
出店するエリアの人口や土地柄を分析して、その土地にする人のニーズを徹底的に分析しています。外装や内装もエリアによって異なるのは、その土地にあった世界観を演出するためだと考えられます。
- Segmentation
- エリアごとに顧客の年齢・性別・職業・収入などでセグメント構成
- Targeting
- その土地のニーズを調査。大都市や主要都市では、平均以上の収入を得ているオフィスワーカーやデザイン職の顧客を対象としている。
- Positioning
- 「都会的でおしゃれな雰囲気と贅沢な美味しいコーヒーを提供」で独自ポジションを獲得。
フリクション
フリクションは、ボールペンという成熟市場に参入して、レッドオーシャンの中で独自ポジションの獲得に成功しました。
「書き直せるボールペンが欲しい」というニーズを察知して、自社で独自開発を進めます。
30年という膨大な開発期間を経て、競合が開発できなかった「消せるボールペン」の商品化に成功し、不動の地位を確立しました。
- Segmentation
- ボールペンを使用するビジネス層
- Targeting
- 「間違えたら書き直したい」というニーズを把握。消せるボールペンを開発できる競合はいない。
- Positioning
- インクを温度変化によって「透明にする」ボールペンを開発して、独自ポジションを獲得。
マクドナルド
マクドナルドは、コロナ禍によるデリバリーの普及をいち早く察知して、独自のメニュー開発やデリバリーサービスの強化を行いました。
Uber eatsの流行が進む中、マクドナルドのデリバリーサービス「マックデリバリー」を強化させ、【提供スピードを早く、低価格】でデリバリーのポジションを獲得しました。
デリバリー限定のファミリー向けメニューも充実させ、コロナ禍にも関わらず、売上アップに成功しています。
- Segmentation
- 外出ができないファミリー層
- Targeting
- コロナ禍により、デリバリーのニーズ増加をいち早く察知。
- Positioning
- 注文から提供までのスピードと低価格で、独自のポジションを獲得。デリバリー専用メニューにより、売上アップに成功。
STP分析をする際の注意点
最後に、STP分析をする際の注意点について解説します。
STP分析の効果を最大限発揮するためにも、以下の注意点は理解しておきましょう。
- 顧客目線を意識する
- データ以外の感覚も重視する
- 市場に対する顧客規模を意識する
顧客目線を意識する
STP分析を行う際は、顧客目線を徹底して意識しましょう。なぜなら、市場を細分化すると、顧客のニーズはより潜在的になるからです。
自社の観点だけを優先してマーケティング戦略を立案した結果、顧客にとって的外れなサービスを提供した事例は少なくありません。
顧客のニーズを深く理解するためにも、アンケート調査を実施したりカスタマージャーニーマップを活用したりして、顧客の思考や感情も理解しましょう。
カスタマージャーニーマップの作り方については、お役立ち資料内で詳しくご紹介しています。
市場に対する顧客規模を意識する
勝てる市場を見つけたとしても、市場に顧客が少ない場合、収益を最大化するのは難しいです。
例えば、NFT市場は世界的に拡大している市場です。しかし、国内でNFTを認知している方の割合は30%前後であり、NFTを保有している方は3%前後といわれています。この場合、NFTの市場は拡大しているものの、顧客数は少なく、競合性は高くなると予想できます。
市場の成長率は重要ですが、顧客数が少ないと競争は激化する可能性が高いです。参入する市場にチャンスを見つけても、現実的な顧客数が市場にいるかは必ず確認しましょう。
分析だけにリソースを使わない
STP分析はマーケティングの準備段階であって、マーケティング施策ではありません。
分析だけに時間を使っていると、競合が参入したり、市場が変化したりする可能性があります。
大切なのは分析をして、次のアクションを起こし、ポジションを実際に獲得することです。STP分析で自社のポジションが明確になったら、すぐ行動に移しましょう。
まとめ
STP分析は、自社が勝てる市場を見つけるための重要なフレームワークです。
市場を細分化してターゲットを選定して、自社が獲得できるポジションを見つけましょう。
なお、顧客の思考や感情を可視化できる【カスタマージャーニーマップの作り方】の資料を、下記のリンクからダウンロードできます。
顧客理解を深めるヒントとして、ぜひご活用ください。