コスメ、健康食品やサプリメントなどを扱うビジネスでは薬機法の存在を気にしなくてはならない場面が多いかと思います。このコラムをお読みの方も、薬機法の違反について取り上げられているニュースを目にしたことがあるのではないでしょうか。
特にマーケティングにおいて薬機法の課題に挙げられるのは、広告での表現です。広告で宣伝しようにも、どのような表現が適切なのか分からない方もいらっしゃるかと思います。
絶対に必要な知識として学ぶ必要があるとはいえ、経営やマーケティング業務をやりながら馴染みのない法律をイチから勉強するのは困難です。
「薬機法の目的とは何か?」
「薬機法における広告規制はどうなっているのか?」
「薬機法のどこに注意したらいいのか?」
そこで本コラムでは、上記のような悩みを持つ方に向けて、薬機法の基本について・薬機法と広告規制・薬機法上の表現における注意点について分かりやすくまとめて紹介していきます。
薬機法とは
広告規制の話に入る前に薬機法の基本について下記の3ポイントから解説していきます。
- 薬機法の制定目的
- 薬機法の規制対象
- 薬機法の適用範囲
以下順に解説していきます。
薬機法の制定目的
薬機法(旧薬事法)とは、薬事法を2014年(令和元年十二月四日)に改正公布された法律で、正式には「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」といいます。管轄は厚生労働省です。
元来、国家は日本国憲法25条2項にて規定された公衆衛生向上に関する国の責務から導かれる衛生行政立法を実現することが要求されています。薬機法はそのための枠組みの一つである、薬事衛生行政の一部として具体的な規制を担う内容の法律となっています。
さらにこの目的は条文の冒頭にて以下のように成文化されています。
- (目的)
【第一条】 -
この法律は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品(以下「医薬品等」という。)の品質、有効性及び安全性の確保並びにこれらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行うとともに、
指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか、医療上特にその必要性が高い医薬品、医療機器及び再生医療等製品の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより、保健衛生の向上を図ることを目的とする。
噛み砕いて解釈すると、この法律の規制対象・規制内容・目的はそれぞれ下記のように表せます。
-
規制対象 : 「医薬品等」と定められた5つの品目
(医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品) -
規制内容
1) 品質・有効性・安全性の確保
2) 保健衛生上の危害の発生・拡大の防止のために必要な規制
3) 指定薬物への規制するための措置
4) 医療のための研究開発を促進するための措置 - 目的:保健衛生を高める
規制対象となる定められた5つの品目は、 同法第2条以下で具体的に定められています。それぞれの規制対象について順に解説していきます。
薬機法の規制対象
薬機法上の規制対象となる医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の定義を確認しましょう。
医薬品
医薬品は第2条1項で、また同条2・3項にて下記のように定義されています。
1項抜粋「日本薬局方に収められ」たもの
2項抜粋「人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの」
3項抜粋「人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの」
1項の「日本薬局方」とは簡単に述べると「医薬品の規格基準書」を指しています。
規格基準書は医薬品として利用認可する際のガイドラインとして機能しています。
また2・3項を簡単に述べると、飲み薬や診断キットのようなものを想定しているということです。
この2点を簡潔にまとめると、医薬品の規格基準書に定められた認可を経た薬となります。
そんな医薬品には下記のようなものが該当します。
- 医療用医薬品
- 市販薬(要指導医薬品、一般用医薬品(第1類~第3類医薬品))
- 体外診断用医薬品(例:血液学的検査薬等)
なお「日本薬局方」の定義の詳細については下記に厚生労働省の記述があります。
医薬部外品
医薬部外品は第2条2項で下記のように定義されています。
- 「吐きけその他の不快感又は口臭若しくは体臭の防止」、「あせも、ただれ等の防止」、「脱毛の防止、育毛又は除毛」を目的とする「人体に対する作用が緩和なもの」で厚生労働大臣が指定するもの
- 「ねずみ、はえ、蚊、のみその他これらに類する生物の防除」を目的とする「人体に対する作用が緩和なもの」で厚生労働大臣が指定するもの
例を挙げると人体に影響度が低い酔い止めや塗り薬、除毛剤や殺虫スプレーのようなものを想像してください。そのうち厚生労働大臣が指定したものが医薬部外品となります。
医薬部外品には下記のようなものが該当します。
- うがい薬・殺虫剤・染毛剤・栄養ドリンク等
※その他人体への作用が緩和なもので、法令又は告示で規定されてるもの
化粧品
化粧品は第2条3項で、下記のように定義されています。
「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物、人体に対する作用が緩和なもの」
これは日常で使われている意味の通りで、人体に影響度が低いファンデーションやコンシーラーなどのコスメ製品やシャンプーやトリートメントといったヘアケア製品などが化粧品となります。
薬機法での化粧品には下記のようなものが該当します。
- 一般的な化粧品・シャンプー・スキンケア用品等
医療機器・再生医療等製品
上記3品目のほか「医療機器」・「再生医療等製品」も医薬品等に該当します。
医療機器と再生医療品については宣伝を実施する機会は多くないと思います。
ここでは細かい定義を省略して参考までに具体例を確認しましょう。
・医療機器(第2条4項)
人や動物の病気に対して診断・治療・予防に使う機材か、身体機能・構造を改善するために使う機材が医療機器とされています。
より具体的な例を挙げてみましょう。薬機法上の医療機器には下記のようなものが該当します。
- ペースメーカー・人工関節・超音波画像診断装置・メス
・ 再生医療等製品(第2条9項1号・2号)
医療・獣医療使用のために人・動物の細胞に培養その他の加工を施したものが再生医療等製品とされています。
医療機器・再生医療等製品については、医療従事者・研究者の方でない限り馴染みがないかと思います。
- 細胞加工製品(例:心筋の細胞シート等)
- 遺伝子治療用製品(例:欠損した遺伝子を人の体内に投与するもの)
以上紹介した主に5つの「医薬品等」に分類される品目に対して、開発・承認・製造・流通・使用の各段階で品質・有効性・安全性を確保するための法規制として機能するのが基本的な薬機法の体系になります。
薬機法の適用範囲
薬機法の基準として上記のような「医薬品等」に該当しなければ、当然ながら規制対象とはなりません。
しかし定義を確認しても「うちの製品が医薬品等に該当するのか分からない…」という方が多いのではないでしょうか。
ここでは薬機法に該当するか否か、判断に迷うような製品の代表例を紹介しましょう。
- 健康食品
- 例)ダイエットドリンク、プロテイン、エナジードリンク
- サプリメント
- 例)マルチビタミン、亜鉛、ヘム鉄、葉酸
- 健康・美容器具
- 例)美顔器、足ふみ健康器具、補正下着、加圧スパッツ、マッサージ機器、アロマオイル
意外にもこれらの品目は薬機法の「医薬品等」の対象となっていません。多くの場合、実用用途の面から医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品として5品目のどれにも該当しないと判断されるからです
※ただし自社内では一般食品に該当する健康食品であると思っていても、機能性の表示をしてしまうと、下記図のように保健機能食品として薬機法の規制ではなく別法の適用可能性があります。
参考:内閣府 特定保健用食品の許可表示例
〇栄養機能食品
参考: 消費者庁 食品表示基準における栄養機能食品とは 〇機能性表示食品
参考: 消費者庁 「機能性表示食品」って何?
また、薬機法の条文本文や法律の概要解説については下記から参照することができます。
次章からは薬機法の定める広告規制に焦点を当てて薬機法と広告について読み解いていきましょう。
薬機法と広告規制
薬機法上の「医薬品等」に関連する不正確な情報が広まることは、社会の保健衛生への弊害を招きます。そのため薬機法では誤った情報の拡大を防止する意図で広告規制の条項が置かれています。
本章では薬機法にかかる広告規制について学んでいきましょう。
広告に関する規制条文
薬機法における広告に関する規制は主に3つの条文で明記されています。
- 虚偽・誇大広告の禁止(66条)
- 特定疾病用医薬品等の広告の制限(67条)
- 未承認医薬品等の広告の禁止(68条)
順に確認していきましょう。
虚偽・誇大広告の禁止(66条)
規制対象となる医薬品等(医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品)の名称・製造方法・効能・効果・性能に対する虚偽・誇大広告の規制を定めた条文です。
2項では記事広告、3項では広告倫理に関わる宣伝について規制を具体化しています。
注目は「何人も」とあるように、虚偽・誇大広告を発信する対象について限定していないため、製造販売を行う業者のみならず、広告・宣伝を掲載するブロガーなどのメディア(媒体)側にも責任が及ぶことになります。
【小】特定疾病用医薬品等の広告の制限(67条)
政令で定められた特殊の疾病に関連する医薬品・再生医療製品の一般人を対象とした広告規制について定めた条文です。
「政令で定めるがんその他の特殊疾病」とは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則(昭和36年厚生省令第1号)」よりがん、肉腫・白血病と規定されています。
これらの医薬品・再生医療製品は、副作用の強いものが多くかつ専門的知識が求められ、仮に広告で一般人に不正確な知識が広まった際の弊害が大きいことから、本条文が設けられています。
未承認医薬品等の広告の禁止(68条)
「医薬品等」の5品目に該当するもので、未だ承認されていない段階にある製品の広告を規制する条文です。
承認されるか分からない製品が広まると、承認却下された場合に虚偽・誇大広告に繋がります。また一般人へ誤まった情報が拡散される懸念から、名称・製造方法・効能・効果・性能などについて無責任な情報を掲載した広告宣伝を防ぐ役割を持っています。
何が薬機法上の広告に当たるのか?
条文とセットで「何が薬機法上の広告にあたるのか?」を確認していきましょう。
薬機法上の広告の定義については、厚生労働省の公式見解として厚生省医薬安全局監視指導課長通知(平成10年9月29日医薬監第148号厚生省医薬安全局監視指導課長通知)により、次の「誘因性・明示性・一般性」が広告の3要件として具体的に明示されました。
- 顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昴進させる)意図が明確であること
- 特定医薬品等の商品名が明らかにされていること
- 一般人が認知できる状態であること
上記3要件では将来の広告環境における社会的・技術的変化に対応するため、「広告」の本質をまとめ上げ、より抽象的な定義を導き出しています。
また、これに加えて平成29年9月29日には、変化する広告環境を鑑みてもっと明確な基準を提示するべく、関連法案として厚生労働省医薬・生活衛生局長から医薬品等適正広告基準が通知されました。
特に医薬品等適正広告基準では第2(対象となる広告)にて、対象となる「広告」について下記のように定められています。
第2(対象となる広告)
この基準は、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、ウェブサイト及びソーシャル・ネットワーキング・サービス等のすべての媒体における広告を対象とする。
マス媒体からWeb広告まで名指しすることで、曖昧性を排除して薬機法の効力が及ぶ範囲をより明確化した基準となります。
現在では実務として運用監視においては上記3要件と併せて当基準も用いられています。
医薬品等適正広告基準では「医薬品等」について、広告表現の制限について表現制限・取り扱い・他社製品への言及・付記事項など含め、広範な判断基準を周知しているため、ぜひ一度お目通し下さい。
薬機法上の表現における注意点
最後に薬機法上の表現における注意点について確認していきましょう。
ここでは注意点を「薬機法NG表現判定基準」「違反した際の罰則」に分けて解説していきます。
薬機法NG表現判定基準
上記で見てきたような広告規制に該当する例を確認していきましょう。
虚偽・誇大表現を用いた広告
まず66条で規制対象となる広告表現には下記のような例があります。
66条1項より虚偽・誇大表現にあたるため、「100%」や「絶対」、「治る」や「不老不死」などの文言はNGです。
医療従事者が効果を保証する旨の記事広告
66条2項で、医薬品等について、「医師その他の者が効果を保証した」と誤解される恐れのある記事はNGとなっています。
広告倫理
66条3項で規定された、医薬品等に関してわいせつな図版などを想起させる倫理的に問題のある広告はNGです。
特定疾病用の医薬品・再生医療等製品関連の広告
67条にて、ガン・肉腫・白血病などの広告は一般人に向けての広告は禁止されているためNGです。
※ただし、医事や薬事に関する記事を掲載する医薬関係者向けの新聞・雑誌による場合や、主として医薬関係者に向けた広告の場合は認められています。
未承認医薬品の広告
68条より、未承認の医薬品等は一律で広告禁止となっているためNGです。
「医薬品等」以外の製品に対する薬機法の規制
前章までに確認した通り、医薬品等はきちんと定義されているため、この 5品目以外の商品であれば薬機法の規制は及ばないかのように思えます。
しかしながら、この「医薬品等」の品目群に触れるのか触れないのか、いわゆる食品・雑貨の中にもグレーゾーンが存在しています。こういった扱いの微妙な製品に対処するために、薬機法では条文以外に厚生労働省の公式見解でも宣伝・表現についての規制基準を設けています。
薬機法規制適用の具体的な判断基準として、厚生省が昭和46年に出した通知(通称「46通知」)と「医薬品の範囲に関する基準の一部改正について」で医薬品の範囲に関する基準の補足があります。
これにより宣伝・表現の規制として、薬機法規制対象外の製品が広告や商品説明において医薬品的な効果・使い方を提示したり、医薬品しか使えない原料を使ったりする場合、薬機法の広告規制対象となることが明示されています。
具体的にはその製品の成分本質、製品形状、表示された効能効果、用法用量などをプロモーションの中で訴求してしまうと、先述したような薬機法の取り締まり対象となる旨が厚生労働省の公式見解となっています。
- 成分本質(医薬品で使用される薬理作用に基づく2次効果のある表現)
NG:高濃度カフェインで朝から元気! - 形状(食品では使用できない形状)
NG:アンプル形状・舌下錠など - 効能効果(Before / After、病気や症状についての言及)
NG:花粉症に効果アリ! - 用法容量(医療品のような時間・回数指定表現)
NG:1回●錠を服用してください。
上記から、これらの製品を扱うビジネスでは、特に宣伝担当・商品開発担当者の方はラベルや広告の表現において薬機法に関する知識と細心な注意が求められます。
なおA8.netとしてもメディア向けではありますが、下記のように具体的なガイドラインを設けています。広告出稿の際には是非ご参照ください。
その他基準について下記に詳しい解説があるのでご確認ください。
違反した際の罰則
先述のような薬機法に定められた広告規制に関して違反があった場合には、厚生労働大臣から課徴金納付命令を受ける可能性があります。
薬機法では2021年8月の改正から虚偽・誇大広告に対しても課徴金が導入されるなど、厳罰化が進んでいます。当然「知らなかった」では済みません。
もし違反した場合は、個人・企業関わらず、違反した主体に対して2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、違反対象商品・サービスの売上額4.5%相当の金額を納付しなければなりません。
また先に述べた通り、規制の罰則対象は広告主だけでなく広告代理店やメディア、ライター、インフルエンサーなどにも及びます。
特に2022年5月現在、直近でも逮捕例まで出ているため、広告においては本コラムで述べたような規制を正しく理解したうえで運用していきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
薬機法と広告の関連性についてご理解いただけたでしょうか。
医薬品等以外にも健康食品・コスメ・サプリメントなどを扱うビジネスでマーケティングを行う際は薬機法の知識が不可欠です。また医薬品・医療機器関連を取り巻く社会問題に合わせて薬機法は見直され、改正案は都度審議に挙げられています。
広告に関してもNGラインが今より厳しくなる可能性も充分あるため、マーケティングを行う方は必ず薬機法と広告規制の流れを注視しておきましょう。
なお、薬機法の広告規制に違反した際の責任はあくまで違反の主体となる広告主・メディアに帰属するものとなりますが、アフィリエイト広告を取り扱うA8.netでは、広告主・メディアが薬機法に抵触して罰則が及び、2者が不利益を被ることが無いよう対策を行っております。
広告主においてはサイト・広告素材審査を必ず行い、登録メディアにおいては規約違反がないか定期的なパトロールを実施しております。
薬機法が心配でプロモーションに着手できないでいる事業者様がいれば、お問合せにてA8.netへの広告掲載可否について薬機法目線からの確認が可能です。下記資料請求を通じて担当者へ相談のうえ、アフィリエイト広告の出稿を検討してみて下さいませ!