マーケティング担当者にとって、「インサイト」という言葉を聞く機会は多いのではないでしょうか。
近年では、インサイト分析が製品やサービスの開発や、リピート購入やクロスセルの促進にも役立つことから、企業経営全般において重視されつつあります。しかし、インサイトの具体的な意味や活かし方については、あまり自信がないという人も少なくありません。
そこで今回は、インサイト分析とは何か、どのようなメリットがあり、どんな風に活用すればよいのかを、事例を交えながら徹底解説します。
インサイト分析とは?
顧客の想いや行動を洞察することによって、企業が購買につなげる計画や戦略の立案に活かすための分析を、インサイト分析と呼びます。
インサイトとは、直訳すると洞察力という意味です。そして洞察とは、ものごとをよく観察し、その背景や奥底にある本質を見抜くことです。
マーケティングにおける洞察とは、顧客が持つ、目に見えるニーズのさらに奥にある、心理や欲求を見抜くことなのです。
顕在ニーズ・潜在ニーズ・インサイトの関係性
顧客が自覚している購買の動機は、ウォンツや顕在ニーズと呼ばれます。それらと対比して、顧客自身も気づいていない購買の動機を潜在ニーズやインサイトと言います。
インサイトと潜在ニーズは近い言葉ですが、インサイトは潜在ニーズよりもさらに深くに隠れている動機のことを指します。
例えば、「髪をつやつやにしたいから、ドライヤーが欲しい」という顕在ニーズがあるとします。
このときの潜在ニーズとしては、次のようなものが考えられます。
- 若々しく見られたい
- 自信を持ちたい
- きちんとした身だしなみでないと、恥ずかしい
さらに、これらに対応するインサイトとしては、次のようなものが考えられます。
- 年齢を重ねると損することが多い
- 美しくなって周りから憧れられたい
- 優秀な社会人として認められたい
このように、インサイトは顧客が持つ「価値観」に近く、育ってきた環境や生活・職場の環境などによって、異なります。
インサイト分析を行う2つのメリット
ここからは、インサイト分析のメリットについて見てみましょう。
- 効果的なマーケティングや宣伝ができ、売上に繋がる
- 他社と差別化でき、選ばれ続ける
メリット1.効果的なマーケティングや宣伝ができ、売上に繋がる
インサイト分析の1つ目のメリットは、製品のマーケティングや宣伝について、インサイトに沿った戦略を練り直し、効果的な売上に繋げられることです。
例えば、不動産販売において立地や間取り、価格などを打ち出した動画広告を作成してもなかなか売れないという場合、インサイト分析を行うことで「ずっと幸せな家庭であり続けたい」という顧客インサイトを発見することができたとします。
上記のインサイトに対しては、動画広告の内容を家族が生涯仲良く過ごす時間や、その移り変わりを表現した映像に作り変えることが有効でしょう。
このように、インサイト分析は有効なアプローチへの改善に非常に役立ちます。
また、各製品の戦略を見直すだけでなく、自社のほかの製品を組み合わせてクロスセルやアップセルができるのではないかと考える際にも、インサイト分析は活用できます。
「ずっと幸せな家庭であり続けたい」という顧客インサイトを発見したなら、子どもの成長や親の加齢に伴い、それぞれのタイミングに合わせて最適なリノベーションを提案するなどの方法があるでしょう。
メリット2.他社と差別化でき、選ばれ続ける
インサイト分析の2つ目のメリットは、競合他社と差別化でき、マーケティングを有利に進めやすくなることです。
顧客インサイトは表面的なニーズとは異なり、多くの企業が簡単に把握できるものではありません。だからこそ、他社が気づいていないインサイトを満たす製品やサービスを開発し、インサイト分析を活用したマーケティングや宣伝を行うことで、自ずと他社との差別化に繋がります。
顧客のより深い部分にある欲求を刺激する製品やサービスであれば、リピート率も高くなります。自社の中長期的な成長においても、インサイト分析は大きなメリットとなります。
インサイト分析の活用事例
ここからは、実際にインサイト分析を活用した企業の成功事例を見てみましょう。
chocoZAP
格安フィットネスジム「chocoZAP」は、隙間時間や通勤途中に通える「コンビニジム」というコンセプトでヒットしています。事業展開をはじめてから約1年半で店舗数は1,333店、会員数は112万4,000人と公表されています(2024年2月14日時点)。
chocoZAPは運動着や靴などの準備なしで使用でき、24時間365日オープンしています。そのため、準備が億劫な人、十分な時間がとれない人、これまで運動に無関心だった人など、さまざまなユーザーが利用することとなりました。
chocoZAPのサービス開発のきっかけは、人が潜在的に持つ「変わりたい」というインサイトでした。
chocoZAPを展開するRIZAPグループの企業理念は、「『人は変われる。』を証明する」です。変わることでさらに豊かな生活を送る人が増えれば、社会そのものをよりよくできるという考えから、多くの人の「変わりたい」というインサイトを満たすchocoZAPが生まれたのだそうです。
chocoZAPをコンビニのように至るところで目にすることで、運動に興味がなかった層にもアプローチできます。また、準備なく隙間時間で使えることから、「自分でも通えるかもしれない」「自分も変われるかもしれない」と気づきはじめる人が増えたのです。
カップヌードル
カップヌードルは日清食品が展開している、日本を代表するカップラーメンです。カップヌードルの人気の大きな要因として、インサイトを見極めた製品開発があります。
例えば、シニア層へのアプローチが成功した「カップヌードルリッチ」は、「食べ物は、価格やジャンル以上に、美味しさがもっとも重要だ」というシニア層のインサイトを発見したことから開発されました。フカヒレスープ味やスッポンスープ味など高級志向なテイストにしたことで、「さまざまな食を嗜んできた自分たちだからこそわかる」という、大人ならではの優越感のインサイトを巧みに刺激しています。
また、女性向けの「カップヌードルライトプラス」は、ラタトゥイユ味やバーニャカウダ味など、女性が好むテイストとなっています。さらにカロリーを抑え、食物繊維をプラスすることで、健康思考でありながらも「本当はカップ麺も食べたい」というインサイトを満たしています。
このように、常に新たなインサイトを発見し、新しいユーザー層を開拓していることが、カップヌードルが売れ続ける理由でしょう。
インサイト分析の具体的な手順
インサイト分析を行うには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。
ここからは具体的な流れについて、ご紹介します。
1.インサイト分析の目的を明確にする
まずは、何のためにインサイト分析を行うのか、目的を明確にしましょう。
例えば自社製品が複数ある場合、製品A・B・Cすべてに当てはまるインサイト分析を行いたいと考えがちです。しかし、まずは製品Aについて分析をするなど、優先順位をつけることが大切です。なぜなら、ひとつの製品にも多様なインサイトが存在し、製品が違えば、必ず消費者の心理も異なるためです。
また、マーケティング戦略の見直しのために行うのか、販売促進のために見直しを行うのか、あるいは製品自体の改善のために行うのかなど、目的を細分化するほどインサイト分析の成果が得られやすくなります。
2.データや情報を収集する
インサイト分析にはデータや情報の収集が欠かせません。
インサイトは本来表面的にはわからない深層の欲求や動機のことです。しかし、インサイトに到達するには、正確なデータに基づいて考える必要があります。定量的な数値、そして定性的な情報、どちらも重視しながら分析しましょう。
ここでいう定量的なデータとは、数値や統計など目に見える形で表されるものです。CRMシステムやECサイトのアナリティクスなどを利用し、顧客の嗜好や傾向を把握しましょう。CRMシステムやECサイトのアナリティクスでは見えてこない、職業・収入・毎月どれくらいのお金を趣味に費やすかなどの数値については、アンケート調査を実施することで収集できます。
一方で、定性的な情報も重要です。数値に表せない顧客の心情や考え、イメージとして想像されるような主観的な情報を集めましょう。店舗での日々の接客やインタビュー調査によって定性的な情報を収集するのもよいでしょう。
直接的な聞き取りでなくとも、SNSや口コミなど現代は顧客の定性情報を集めるに適したツールやプラットフォームは多く存在します。顧客やターゲットに近い人々のコメントを参照しましょう。
3.集めた情報を分析し、仮説を立てる
インサイト分析の真髄は、集めた情報を分析することです。また、インサイトが表面化していない奥底の欲求であるからには、分析だけでなく仮説を立てることも重要です。
そのため、「このニーズ、この発言、この行動の裏には、このようなインサイトが隠れているのではないか」と、なるべく複数人で議論をすることがおすすめです。
情報があまりに多い場合は、テキストマイニングツールを利用するのもよいでしょう。テキストマイニングツールとは、収集したデータを一挙に分析できるシステムです。年代や居住地などを分類し、それぞれのユーザー層がインタビューでどのような言葉を多く使っていたのかなどを可視化することができます。
4.導き出した顧客インサイトを活用する
インサイト分析ができたら、それを活用して製品開発やマーケティング戦略の見直しを行います。
インサイト分析の最終的な目的は、やはり企業の売上アップなど経営に活かすことでしょう。インサイト分析後は、すばやく課題解決や改善に役立てることが大切です。せっかく多くのデータや情報を集めてインサイト分析を行ったとしても、活用まであまり長い時間をかけてしまうと、使えない分析になってしまうケースもあります。
インサイト分析の成果を最大限活かせるときに活用するよう意識しましょう。
効果的なインサイト分析&インサイト活用のコツ
インサイト分析と、その活用にはコツがあります。
前述のデータや情報から分析・活用するという基本手順に加え、さらにインサイトを発見しやすくするコツや、製品開発やマーケティングに活かすためのコツをご紹介します。
普遍的な欲求を見直す
インサイト分析の基本として必ず行いたいのが、普遍的な欲求について見直すことです。
例えば、食事や睡眠に対する欲求は、人間が持つ普遍的なものですが、このようなあたりまえの事実には思い込みが潜んでいる可能性があります。
睡眠グッズを扱っている企業が「ユーザーはぐっすり眠りたいだろう」と考えていたとします。しかし、メインターゲットとすべき層の人たちは、夜勤をすることも多く、「質が高いに越したことはないが、むしろ寝過ぎてしまわないようなグッズがほしい」と考えているかもしれないのです。
時流を捉える
社会的な流れや文化的な背景によってインサイトは大きく変化します。そのため、現在どんなものが流行っているのか、その背景には何があったのかなどを捉えることが、より効果的なインサイト分析に繋がります。
何かが人気を集めて流行しているというポジティブなものだけでなく、ネガティブな流れについても考える必要があります。自然災害や他国で起こっている戦争など、さまざまな時流が顧客インサイトに影響を与えます。
例えば、テントの売れ行きがよいという背景には、キャンプブームだけでなく地震被害に備える防災意識の向上があるかもしれません。キャンプに行きたいと考えている人と、防災グッズとしてテントを買っておこうと考える人では、インサイトも大きく異なるでしょう。
感情が動く背景を考える
なぜその製品を購入したのか、顧客自身も本当の理由がわかっていないことは多々あります。その隠れたインサイトを探るには、価格・機能・デザインなどのわかりやすい要因以上に、感情に着目することが重要です。
例えば、可愛らしいパッケージデザインの食器洗い洗剤を販売しているとします。あるユーザーがそれを買った理由は、単純に可愛いと感じたからだけでなく、部屋に置いていても生活感が漂わない部分に安心感を持ったのかもしれません。
どんなものを見たときに、どんな感情が動くのかは、人それぞれです。感情が動く背景を探ることで、インサイトの発見に繋がります。
ユーザー行動の矛盾点を見つける
ユーザーの行動に矛盾点を発見できれば、そこには深いインサイトが隠れていると考えられます。
例えば、ハンバーガーなどを提供するファストフード店でアンケートを行った結果「ヘルシーなメニューも導入してほしい」という声が多く見られたと言います。しかし、実際にヘルシーなメニューを販売したところ、あまり売れずに結局メニューから外した事例があります。
この場合、そもそもファストフード店を利用する行動と、ヘルシーメニューを求める傾向にズレがあります。「ヘルシーなメニューも導入してほしい」という声は、建前であった可能性があるのです。
インサイトとしては「ファストフードに行くなら、ボリュームあるメニューが食べたい」「ヘルシーなものを食べるなら、オーガニックメニュー専門店のほうがよい」というものが考えられます。
このような矛盾点から真の顧客インサイトを見抜き、自社が注力すべき点を見極めていくことが重要です。
データから新たなターゲットを見極め、カスタマージャーニーを描く
インサイト分析をすると従来のターゲット層以外にもリーチできる可能性が生まれます。
例えば、「美しくなりたい」というインサイトは、かつては女性特有のニーズとみなされていました。
しかし、企業がメンズコスメを開発したり、ジェンダーレスなイメージを打ち出すことで、現在では男性が美しさを追求することも珍しくなくなりました。なぜなら、男性の中にも女性と同じように「美しくなりたい」というインサイトが存在しているからです。
発見したインサイトをもとに新たな顧客を想定し、その顧客がどのように購買に至るのかと考える。つまりカスタマージャーニーを描くことが、製品のさらなる認知や売上に繋がります。
まとめ
インサイト分析は企業のどのフェーズにおいても重要です。
自社のインサイト分析の手段や活かし方が確立していれば、時代に応じたインサイトを見つけ出し、需要を生み出すことができます。ぜひ取り入れてみてください。
カスタマージャーニーの描き方については、以下の資料で詳しくご説明していますので、ぜひご参照ください。