商品やサービスの売り場として店舗を持つ企業なら、見逃せない近年のユーザー行動に『ショールーミング』があります。
これからの店舗運営には、ショールーミングに対応したマーケティング戦略や販売戦略の実行が欠かせません。
この記事では、ショールーミングの基本から企業事例、メリットや活かし方まで、まとめてご紹介します。ぜひお役立てください。
ショールーミングとは
ショールーミングとは、ユーザーが買い物をする際、店舗で実物を手に取り確認したうえで、ECサイトで商品を購入することを指します。
オンラインで商品を購入するとき、サイズ感や使用感に不安を感じる方は少なくありません。近年のアパレルECサイトでは、試着後に返品できるところも増えているものの、ユーザー自身が再梱包・発送することは手間がかかります。そのため、まずは店舗で確認してから購入をするユーザーが増えているのです。
ショールーミングとウェブルーミングとの違い
ショールーミングに似た言葉として、ウェブルーミングがあります。
ショールーミングとは逆に、ウェブルーミングはECサイトで情報を確認してから実店舗で商品を購入することを意味します。
ユーザーがショールーミングをする理由
ショールーミングについて、店舗に足を運んでいるなら、その場で購入すればよいのではないかと疑問を持つ方もいるでしょう。しかし、ユーザーがわざわざオンラインで購入するには理由があります。
まずは、ユーザーがショールーミングをする理由を、詳しく確認しましょう。
実店舗よりも低価格で入手できる
ユーザーがショールーミングをする理由のなかで最も多いとされているのが、「オンラインのほうが低価格で商品を購入できるから」というものです。特に大量生産されている商品の場合、多くの企業が実店舗よりもECサイトのほうがより安く入手できるよう設定しています。
「質は確かめたいが、なるべく安く商品を手に入れたい」と考えるユーザーは、店舗で商品情報を確認したあとでECサイトで購入します。
商品を持ち帰る必要がない
商品を持ち帰らなくてよいことも、ユーザーがショールーミングをする理由の1つです。
オンラインで注文すれば、店舗で購入するときのように荷物を持って帰る必要がありません。持ち運びが難しいものや、買い物のあとに予定が詰まっている場合にも便利です。
ECサイトが普及した
ショールーミングをするユーザーが増えている背景として、最も大きく影響しているのがECサイトの普及ではないでしょうか。
年々、人びとにとってインターネット上で買い物をすることは当然となり、オンライン購入の需要に合わせて多くの企業がECサイトを立ち上げました。現在では、あらゆる商品をECサイトで購入できます。
店舗で購入するかをすぐに決めかねる場合も、ECサイトがあるなら少し考えてあとから買うことができるため、実店舗・ECサイト両方を持つ企業は、柔軟なニーズに対応できます。反対に、ECサイトを持っていない小売店は大きな機会損失をしてしまっているかもしれません。
在宅時間が増えた
ECサイトの普及をさらに加速させたのが、2020年以降の新型コロナウイルスの蔓延です。感染症の流行によって、私たちにとって、ネットショッピングは非常に身近なものになりました。人びとの外出機会が減ったことで、多くの店舗が売上減少に悩まされましたが、一方でECサイトで売上を伸ばした企業も少なくありません。
さらに、2023年からは新型コロナウイルスが季節性インフルエンザと同じ5類感染症へと変更されたことで、外出をする人が増えはじめました。つまり、ECサイトを使い慣れた人びとが実店舗に足を運びはじめたのです。
このような時流によって、ショールーミングはユーザーの購買行動としてますます定着しつつあります。
ショールーミングのメリット・デメリット
ショールーミングをするユーザーが増えると、店舗売上が下がる懸念が出てくるのではないでしょうか。
確かに、そのような傾向はありますが、ショールーミングにはメリットもあります。
ここからは、店舗やECサイトを運営している企業にとって、ショールーミングをするユーザーが増えることで、どのようなメリットとデメリットがあるのかをご紹介します。
ショールーミングのメリット
商品やブランドへの信頼を高めてもらえる
ショールーミングでは、実際に店舗で商品を確かめてもらうことで、商品やブランドへの信頼を高められます。店舗の清潔感や接客にこだわっていれば、さらに好印象となるでしょう。
企業側としては、ショールーミングをするユーザーに対して梱包や会計の時間を省ける分、接客に注力できます。
丁寧なコミュニケーションはもちろん、商品の価値を十分に伝えられるよう、商品や業界に関する知識を蓄えておくことが重要です。
顧客の声を収集できる
接客に注力できるということは、ユーザーの声を直接収集しやすいともいえます。
ユーザーがそのときなにを求めているのかはもちろん、何を基準にブランドを選んでいるのか、ほかにはどんなニーズを持っているのかなどを聞き取ることで、今後の商品開発やマーケティングにつながるヒントを見つけられます。
実際に現場の声を活かして生み出した商品がヒットするケースも少なくありません。
オンラインユーザーを確保でき、WEBマーケティングにも活きる
お客さまの来店時、店舗スタッフにとっては、ショールーミングをしているユーザーかどうかを一見して判断できるものではありません。
ショールーミングをするつもりではなく、店舗での直接購入を検討して入店したお客さまに対しても、ECサイトをお知らせしましょう。それによって、次回以降のオンライン購入の選択肢をユーザーに与えることになります。
ショールーミングを目的とした来店であっても、ECサイトの詳しい使い方を伝えるなどのほか、公式サイトやSNSをおすすめすることで、WEBマーケティングの促進につながります。
いまの時代は、店舗で買わなかったからといって、顧客ではないわけではありません。多様な接点をお知らせし、購入方法にこだわらず、ブランドや企業全体での売上アップをはかることが大切です。そうすることで、接客が押し売りになってしまうことなく、むしろ好意的に感じられることもあります。
余剰在庫を削減できる
ショールーミングのメリットとして、実店舗の余剰在庫を減らせることもあげられます。在庫負担を軽減することで、売れなかった商品の廃棄やセールに割くコストも下げることができます。
店舗スタッフが在庫管理にかかる手間を減らすことで、より外部から目につく場所への配慮や接客に注力できるのも利点です。
ショールーミングのデメリット
店舗の売上が落ちることがある
デメリットとしては、店舗の売上が落ちることがあげられます。
しかし、これほどECサイトが普及し、テクノロジーもますます進歩していくなか、ショールーミングを止めることは現実的ではありません。また、上記のように多くのメリットもあります。そのため、店舗だけでなく、ブランドや企業全体としての売上向上を意識しましょう。
店舗の売上にこだわりすぎず、オンラインとの連携を踏まえたマーケテイング戦略や販売戦略を実行することが重要といえます。
メリットとデメリットを踏まえると、ショールーミングの一般化はECサイトがない企業にとっては致命的だと考えられます。近年の市場を鑑みれば、すぐにでもECサイトの立ち上げを検討したいところです。
ECサイトを作るには何をすればよいのか、どんな作業が発生するのかなどを知りたい方は、ぜひ以下の記事を参考にしてください。
ショールーミングを活用している企業事例4選
さまざまな企業が、ショールーミングの普及を好機にするべく、ショールーミングの活用に取り組んでいます。
ここでは、4つの企業事例をご紹介します。
大日本印刷×JR東日本クロスステーション:ユーザー体験をデータ化
大日本印刷株式会社と株式会社JR東日本クロスステーションデベロップメントカンパニーは、共同でショールーミング店舗「&found」を運営しています。
JR東京駅などの駅構内で1か月程度の店舗運営を行い、入店者の会話内容を取得するマイクや、入店者数や入店者属性を検知する機器を設置。さらに、棚への立ち寄り状況や入店者の動線を把握するできる人流センサーなども駆使して、ショールーミング店舗でのユーザー体験をデータ化しています。
商品自体を店頭に並べることはせず、ユーザーは店内に並ぶ試食引換カードを手に取り、レジへ持っていく仕組みです。非常に少ない在庫で運営でき、ディスプレーにかかる手間も省かれています。
また、隙間時間を活用してもらうことをコンセプトに駅構内に設置しているため、来客数が多く非常に有効なデータを取得できることもポイントです。
今後も、駅中や駅周辺での展開が検討されています。
画像引用元:PR TIMES『大日本印刷とJR東日本クロスステーション 「半歩先の日常」を体験できるショールーミング店舗「&found」をJR東京駅にオープン』(参照 2024-04-10)
出典元:DNP 大日本印刷『ショールーミングで新しい店舗づくりを実証/4千人以上が試食体験した次世代店舗「&found(アンドファウンド)」』(参照 2024-04-10)
お仏壇のはせがわ:持ち帰りにくいものを展示
仏壇仏具を取り扱う株式会社はせがわも、ショールーミングを推進しています。
大きいものや重いものはもちろん、仏具などの縁起に関わるものや割れ物は、ユーザーにとって持ち帰りにくいものです。そのため、そもそも実物を見てもらったうえでのオンライン注文を前提として、ショールーミングストアを運営しています。
大きさや重さのみならず、ユーザー心理として、慎重に持ち帰らなければならないものかどうかも検討し、ショールーミングを活用してみるとよいでしょう。
画像引用元:PR TIMES『静岡県初出店!お仏壇のはせがわがイオンモール浜松志都呂にオープン』(参照 2024-04-10)
ららぽーとクローゼット:店舗でしかできない体験を提供
ららぽーとクローゼットは、実際に商品を試して、気に入った商品をQRコードを読み取ることでECサイトにて購入できる、定番の仕組みのショールーミングストアです。
特徴的なのは、AIカメラによって、フェイス・パーソナルカラー診断、ファッションタイプ診断、3D骨格診断などができることです。診断結果は紙のカルテやWEBページで持ち帰ることができます。
誰でも無料で利用できるうえ、診断結果はららぽーとクローゼット以外での買い物にも役立てるため、ユーザーにとって非常に有益です。
上記の事例には大規模な機器を取り入れている企業もありますが、まずは小規模なポップアップストアとして、期間限定でショールーミングを行い、ユーザーの反応を見つつ、自社とショールーミングの親和性を探ってみるのもよいのではないでしょうか。
画像引用元:流通ニュース『ららぽーと海老名/体験重視のショールーミングストアをオープン』(参照 2024-04-10)
楽天市場:インフルエンサー起点のショールーミング
楽天市場は、憧れのあの人が選ぶギフトセレクションとして、インフルエンサーが選んだ製品をショールーミングストアで展開。パーソナルスタイリストや料理家を起用し、アパレル製品をはじめ、美容グッズや飲料を紹介しています。
インフルエンサーを起用することで、ユーザー自身だけではほしいと思わなかったかもしれない製品に出会うことになり、ニーズを創出できます。
そもそもECサイト主体の楽天ショッピングだからこそ、リアルな商品に触れる体験は貴重です。インフルエンサーも出演することで、さらなる集客につながっています。
画像引用元:PR TIMES『楽天のショッピングSNS「ROOM」のショールーミング型ポップアップストア「ROOM GIFT SELECTION POP UP STORE」を「新宿マルイ 本館」1階に期間限定オープン!』(参照 2024-04-10)
ショールーミングを味方にする方法
最後に、ショールーミングを味方につけ、ブランドや企業にとってプラスにするためのコツをご紹介します。
店舗ならではのサービスや体験を提供
ショールーミングをしている来店者は、購入するかどうか迷っている状況です。
帰宅後、確実にECサイトで購入してもらうために、店舗を情報提供の場としてとらえ、しっかり製品のよさを伝えましょう。来店者の納得がいくまで試着や試用をしてもらうことも大切です。快い接客で信頼関係を築くことも、購入するかどうかの重要な決め手となるでしょう。
ECサイトでの購入をサポートすることも重要です。購入方法をレクチャーしたり、すぐにECサイトにアクセスできるようQRコード付きのカードやフライヤーを渡すなどの工夫が成果につながります。
店舗ならではの魅力的な経験を提供することで、ECサイトで購入するつもりだった方がファンになり店舗で購入するケースもあります。
このようなユーザーとの対話を通じて繊細な購買心理を知ることができるのは、店舗ならではのメリットです。ECサイトの運営担当や商品開発担当とも共有し、改善につなげていきましょう。
オムニチャネル化によって多方面から集客
さまざまな販売経路からスムーズに購入できるようにすることを、オムニチャネル化と言います。実店舗とECサイトの連携はもちろんですが、SNSやアプリなど、あらゆるチャネルを活用して、さまざまな購入経路や接点の組み合わせを用意しましょう。
例えば、SNSやアプリなどで検索した商品の支払い自体は店舗で行えるようにし、受け取りは自宅指定にする方法があります。これによって、クレジットカードを持っていないユーザーであっても店舗で現金払いができます。店舗で購入したとしても持って帰る必要がないため荷物にはなりません。ターゲット層が高校生以下の場合などに有効です。ターゲットを明確にすることで、自社がやるべきオムニチャネル化の形が見えてきます。
また、スマートフォンアプリで店舗の位置が確認できるようにしたり、在庫状況を確認できるようにするなども効果的です。
さまざまなオンライン施策と店舗が連携できれば、販売機会も増加し、ブランドと企業の売上向上にもつながっていきます。
すべてのユーザーニーズに応えることはできませんが、なるべく多くのユーザーが利便性を感じられる組み合わせを実現することで、ショールーミングを味方につけましょう。
O2O施策で店舗における購入率をアップ
O2O (Online to Offline)と呼ばれる、ユーザーをオンラインからオフラインへ導く戦略も、ショールーミングを促進するうえでは考慮すべきものです。
例えば、ECサイトやアプリで、実店舗でのみ利用できるクーポンを配布する方法があります。ショールーミングを行うユーザーである以上、店舗に足を運ぶ機会も持っていると言えます。実店舗に訪れたタイミングでの買い物を促進する工夫を取り入れましょう。
また、ECサイトやアプリでの購入者に対し、店舗購入のクーポンを配布すれば、リピート率の向上も期待できます。
オンラインとオフラインの連携が取れていれば、ユーザー属性による傾向を分析し、企業の成長につなげることができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ショールーミングの普及は、必ずしも店舗にとってマイナスとなるわけではありません。むしろ、店舗とECサイトの連携を主としたさまざまな施策によって、大きくプラスに変えるチャンスになりえます。
ショールーミングを活用して成果を出すには、ユーザー心理の理解が非常に重要です。ユーザーがどのようなきっかけで、どのようなステップを踏んで購買に至るのかなどを段階的に捉える考え方をカスタマージャーニーと言います。
カスタマージャーニーの描き方については、別途資料をご用意しています。ショールーミングの広まりをさらに好機にしていくために、ぜひご覧ください。