『リキッド消費』という言葉をご存知でしょうか。
世の中には便利なサービスが次々と生まれていくなか、リキッド消費は現代の消費行動の変化を的確に表現しています。
今回は、リキッド消費の基本的な意味、メリット事例、そして企業がマーケティングに活用する戦略までまとめてご紹介します。
「リキッド消費を正しく理解して、仕事に活用したい」
「時代にあったマーケティングを行いたい」
といった方は、ぜひご覧ください。
リキッド消費とは
リキッド消費とは、モノやサービスの一時的な使用権を購入することによって、デジタル化された消費行動のことを指します。
リキッド(liquid)とは英語で「液体」という意味です。リキッド消費は、その場その時に応じて必要な消費を行う、液体のように移ろいやすい特性を持っています。
リキッド消費の具体的な例としては、Amazon Prime Videoのような動画配信サービスや、カーシェア、洋服のレンタルサービスなどが挙げられます。
出典元:矢野経済研究所『サブスクリプションサービス市場に関する調査を実施(2023年)』(参照 2024-04-10)
リキッド消費の代表格である、サブスクリプションの市場規模は右肩上がりで成長しており、2025年は1兆円規模にまで成長すると予測されています。今後も広がりを見せるであろうリキッド消費は、企業側としては決して見逃せない消費特性と言えるでしょう。
リキッド消費が市場拡大する背景
ではなぜリキッド消費がここまでの成長につながったのでしょうか。
リキッド消費が市場拡大する背景としては、主に以下の3つが考えられます。
- デジタル技術の発達
- モノ消費→コト消費への変化
- コスパ、タイパ重視の社会的風潮
詳しく解説します。
デジタル技術の発達
リキッド消費の大きな成長要因として、デジタル技術の発達は欠かせません。
5Gや光回線を筆頭としたインターネット・通信技術の急速な発達によって、大容量のデータ転送が可能となった現在、私たちはスマホやパソコンで手軽に情報を入手できるようになりました。
そのため、DVDやCDといった有形商材を持たずとも、データとして購入する消費スタイルが定着しています。実際に店舗に足を運ぶ回数が減った方も多いのではないでしょうか。
現在もデジタル技術は成長を続けており、人工知能(AI)を活用したサービスや、5Gよりさらに高速で大容量の通信を可能とする、6Gの開発も進んでいます。こうした技術向上によってモノやサービスのオンライン化が進むことで、消費者は直接商品を購入するのではなく、その使用権に対して金銭を支払うビジネスが成り立つのです。
モノ消費→コト消費への変化
経済成長などによってさまざまなモノやサービスが行き渡ったことで、私たちの消費スタイルはモノ消費からコト消費へと変化しています。
モノ消費とは、商品の物理的な所有を重視した消費行動です。しかし、サブスクリプションやネットショッピングの発達など、あらゆる方法で欲しいものがすぐに手に入る環境となった現在、消費者のマインドはコト消費に移りつつあります。
コト消費は、商品やサービスを使用することで得られる体験や経験を重視した消費行動です。これまで、「買う・買わない」という2択のなかに「借りる」や「シェアする」といった新たな手段が加わったことが、リキッド消費特有の流動性や柔軟性につながっています。
コスパ、タイパ重視の社会的風潮
Z世代を中心とした若年層では、コスパ(コストパフォーマンス:費用対効果)、タイパ(タイムパフォーマンス:時間対効果)を重視する傾向が強くなっています。
SNSの台頭によって流行やトレンドの移り変わりがよりスピーディーに、かつ激しくなり、良質な商品やサービスが次々と消費されます。
物理的な購入の場合、メンテナンス費や処分費用、あるいは購入してから手元に届くまでの時間的な制約が生じるケースもあります。リキッド消費では、そうした所有に付帯する時間的負担・コスト負担を排除し、より自由で瞬間的な消費行動が支持されています。
リキッド消費とソリッド消費の違い
リキッド消費の対になる存在が『ソリッド消費』です。
リキッド消費は一時的な使用権を購入するのに対し、ソリッド消費は長期的な所有・使用を軸とした消費スタイルを指します。
リキッド消費を提唱したイギリスのマーケティング学者、バルディとエクハルトは、2つの消費の特徴について、リキッド消費は『儚さ』『アクセスベース』『脱物質化』、ソリッド消費は『永続的』『所有的』『物質的』の要素があると定義しています※。
ソリッド消費からリキッド消費への人々の消費行動が変化するなか、ブランドと消費者との関係がより短命で刹那的になることを『儚さ』と表現しています。企業はこうした移ろいやすい消費行動に対して、より継続価値のある商品やサービス提供を続ける必要があります。
※引用元:明治安田総合研究所『不確かな消費環境を見通す「リキッド消費」というレンズ』(参照 2024-04-10)
リキッド消費における消費者・企業のメリット
では実際にリキッド消費は消費者、企業にとってどのようなメリットがあるのか、ご紹介します。
リキッド消費による消費者のメリット
リキッド消費の消費者のメリットとしては、商品やサービスの利用に対するハードルが低い点が挙げられます。
商品購入と比べて低価格であり、「購入するには金額が高いが、興味はある」「まずは試してみたい」といったユーザーニーズに効果的です。特に車や不動産のような高価な商材や購入決定に一定の検討期間を要する商材と親和性が高いでしょう。
所有に付帯するさまざまな負担を軽減し、使いたいときに使いたいときだけ使用できることで、柔軟性の高いライフスタイルを実現できます。
リキッド消費による企業のメリット
リキッド消費の企業側のメリットとしては、主に以下の3点が挙げられます。
- 顧客獲得がしやすい
- 不良在庫を抱えにくい
- 事業成立しやすい
顧客獲得がしやすい
リキッド消費を行うユーザーは、お試しや一時利用といったライトな顧客層となっており、ターゲット層を広く囲うことができます。
例えば、車や不動産といった高価格帯商材を販売する場合、製品自体の質だけでなく、販売スタッフの高い営業スキルも必要となります。そのような際、まずは製品のメリットを体験してもらい、興味を持ったユーザーへは物理的な購入に繋げるようなビジネス設計も可能です。
中長期的な顧客育成を見据え、まずは新規顧客の獲得を狙うには、リキッド消費は大きなメリットになりうるでしょう。
不良在庫を抱えにくい
企業側が不良在庫を抱えにくく、有効活用できるのもリキッド消費のメリットです。
物理的な販売の場合、需要と供給のバランスをコントロールできないと、生産管理のコストだけがかかってしまうケースも考えられます。
リキッド消費では、企業は商品の一時的な使用権を販売するため、大量の在庫を抱えずにビジネスを開始できます。売れなかった不良在庫などを有効活用できれば、保管コストだけかかっていた在庫品の利益化が期待できます。
事業成立しやすい
リキッド消費は手数料ビジネスとなるため、事業として成立しやすい点もメリットです。
生産コストなどの初期投資は抑えつつ、クリーニングやサーバー管理費などのメンテナンスで事業維持できれば、中長期的な利益につながります。
提供する製品は不動産や物品だけでなく、駐車場といった空間、あるいは業務委託などのスキル提供にも転用できます。需要のあるものなら、あらゆるものが事業化対象になる点も強みと言えるでしょう。
リキッド消費の代表的な事例
リキッド消費の代表的な事例を紹介します。
シェアリングサービス
シェアリングサービスとは、個人や企業が所有するモノやサービス、場所などを必要とするユーザーに提供・共有するビジネスモデルです。
シェアリングサービスによって成り立つ経済活動や仕組みをシェアリングエコノミーと呼びます。
あらゆるカテゴリでシェアリングサービスが誕生していますが、代表的なものとしては、電動キックボードシェアの『LUUP(ループ)』や、スキルシェアのプラットフォーム『ココナラ』などが挙げられます。
消費者にとっては、一時的な利用となりやすいものをシェアリングサービスで補完することで、購入よりも安く費用を抑えられます。「まさに今使いたい」というリキッド消費特有のニーズに合致したサービスです。
サブスクリプションサービス
サブスクリプションサービスとは、月額課金、年額課金といった一定期間分の製品やサービス利用に対して、代金を支払うビジネスモデルを指します。
代表的なサービスとしては、音楽配信サービスの『Apple Music』や、動画配信サービスの『Amazon Prime Video』などがあります。
上記のような無形商材以外にも、家電や楽器、おもちゃといった有形商材でもサブスクリプションサービスは展開されています。すべて買い揃えるにはお金がかかってしまったり、定期的に買い替えの必要がある商材は、ニーズが高くなる傾向があります。
サブスクリプションサービスは、低価格かつ長期的に利益をあげるビジネスのため、リキッド消費との親和性も高いと言えます。
リサイクル・リユース系サービス
リサイクル・リユース系サービスとは、ユーザー間で不用品を販売・購入するビジネスモデルです。
フリマアプリの『メルカリ』や『ジモティー』などが代表的です。
これらは一見リキッド消費とは関連がないように思えますが、実はフリマアプリが普及したことによって、人々のモノの買い方が変わっているのです。
というのも、メルカリと三菱総合研究所の共同調査によれば、フリマアプリ利用者の50%以上が新品購入時に将来の売却を意識すると答えています。
※引用元:株式会社メルカリ『メルカリ、三菱総合研究所とシェアリングエコノミーに関する共同研究を実施』(参照 2024-04-10)
「一度購入して合わなければ気軽に売る」という選択肢が生まれたことで、消費者には購入時点から脱物質的、つまりリキッド消費的な意識が広がっています。リサイクル・リユース系サービスは、リキッド消費の裾野を広げた存在です。
リキッド消費を活用したマーケティング戦略
最後に、リキッド消費をマーケティングに活用する際のポイントを3つ、お伝えします。
- 消費者心理を深く理解する
- 初期投資を抑える
- 継続率を下げない
詳しく解説します。
消費者心理を深く理解する
まず大前提として、リキッド消費の消費者心理をしっかり理解しておく必要があります。
特にリキッド消費の主なターゲットはライト層になることが多いため、モノを購入する際に生じる(お金、時間、場所、手間)などのハードルになりうる要素を洗い出しましょう。
ターゲット層に当てはまる人に話を聞くのも有効です。なぜなら、お金や時間などの負担は企業側でも見つけやすくとも、ターゲットの環境や1日の生活サイクルなどは実際に聞いてみないと見えにくいからです。
リキッド消費ではコスパやタイパが高いものが好まれるため、毎月あるいは毎日、ユーザーがどの程度のコストを割けるか逆算して考えるべきです。
ペルソナやカスタマージャーニーマップなどを使って、消費者のニーズを掴みましょう。
初期投資を抑える
リキッド消費は、購入よりも低価格となる分、中長期的に利益を回収するモデルです。そのため、初期投資が抑えられるほど黒字化しやすくなります。
初期投資が多いほど回収に時間がかかるため、店舗や倉庫などの物理的な管理費がいらない無形商材(データやサービスなど)がおすすめです。有形商材の場合は、原価率の低い商材や、在庫管理がしやすい商材などから始めるのがよいでしょう。
サブスクリプションサービス形式のほうが損益分岐点が計算しやすいメリットがありますが、扱う商品が多岐にわたる場合は、従量課金制にする方法もあります。ユーザーの使用頻度や用途に応じて、最適な方法を模索しましょう。
継続率を下げない
リキッド消費では、いかにユーザーに長期間継続利用してもらえるかが鍵となります。
リキッド消費をするユーザーは、ブランドのコアファンではありません。そのため、「このブランドだから継続したい」といった執着はなく、競合サービスで優位なものがあれば容易に乗り換えられてしまいます。
このようなある種“フラットな”ユーザーを確保するには、顧客満足度を定点観測しながら常に充実したサービス提供を続ける必要があります。長期継続者に対して特典や割引を与えたり、新規コンテンツのメルマガ配信やアフターサービスの強化などを実施することで、新鮮なサービス状態を保ちます。
また、競合企業も同様にブラッシュアップを続けているはずです。新サービスの提供やキャンペーンなど競合企業の動きも素早くキャッチアップすることを心がけましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本コラムでは、リキッド消費の基本情報から、代表的なサービス、活用のポイントまでご紹介しました。
ブランドを確立するうえで、ファンを重視したマーケティングが近年注目を浴びていますが、一方で「ファンではない大多数の消費者」にも目を向けることも重要な視点です。
そのような大多数の消費者を獲得するためには、リキッド消費は必ず理解しておくべき要素と言えるでしょう。正しく消費者心理を理解し、ビジネスに繋げましょう、
なお下記のコラムでは、顧客理解に必須とも言えるカスタマージャーニーについて、詳しくまとめています。
興味のある方は、この機会にぜひご一読ください。